香川県民のさぬきうどんの記憶を徹底収集 さぬきうどん 昭和の証言

高松市塩江町・昭和23年生まれの男性の証言

塩江の山奥のうどんの集い「ぎおんこ」

(取材・文:

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  • vol: 109
  • 2015.10.19

「ぎおんこ」といううどんの集いをやっていた

小さい頃(昭和30年代頃)にうどんを食べていましたか?
割とよく食べとったで。親戚とか近所に住んでいる人とか、顔なじみの人間とか、とにかく誰かが家に来ると、しょっちゅううどんを作っとった。コーヒーやお茶と同じ感覚で、うどんを出しとったな。うどんだけやなくて、蕎麦もしとったけど。そういや、「ぎおんこ」って呼んでいたうどんの集まりもあった。
「ぎおんこ」?
各家々が持ち回りでうどんを作って、ほいで部落の人たちを自宅に招いてうどんを振る舞うんや。月にいっぺんぐらいやったやろか。自分とこでうどんを作る当番がやって来るのは、1年にいっぺんぐらいやったかな。
何かの会合ですか?
いや違う。わざわざ、うどんを食べるためだけに集まっとった。男性だけではなく、女性も子どもも。当時まだ小さかった自分も、両親と一緒にあちこちの家に行ってうどんを食べた。
「ぎおんこ」って、どんな漢字を書くんですか?
いや~、それは知らん。名前の意味もよく分からんなぁ。でも、みんな「ぎおんこ、ぎおんこ」言うとった。
じゃあその「ぎおんこ」で、どんなうどんを食べていましたか?
だいたい生醤油かしっぽく。しっぽくには、その時(季節)の野菜を入れとった。塩江でもかなり山ん中に入った貧しい田舎に住んどったから、周りは農家ばっかりで、みんな自分とこの畑で獲れた野菜をしっぽくの具にした。八百屋なんかないからな。

うどんに「醤油の実」をトッピング?!

そうすると、うどんの麺も当然、自分のところで…。
作っとったよ。当たり前やん(笑)。材料の小麦も畑で作っとった。小麦だけやなくて、米も大麦も蕎麦もやよ。すべてが自給自足やった。
では、小麦から小麦粉にはどのように?
家に挽き臼があった。それで小麦を挽いて粉にした。板や麺棒なんかのうどんを作る道具も一通り揃っとった。どこの家にもあったで。うどんを作らなアカンのやから(笑)。うどんだけやなくて食べるもんはほとんど作っとった。味噌や豆腐、「醤油の実」なんかも。
「醤油の実」?
もろみみたいなもんかな。小麦粉や大豆なんかを使って作った。白い御飯の上にのせて、お茶漬けにしてよう食べたで。うどんを生醤油で食べるときに、「醤油の実」をのせることもあったな。

徳島の脇町にも「ぎおんこ」があった?!

「ぎおんこ」は、その塩江の山奥だけの風習でしたか?
いや、そんなことなかったと思う。徳島の脇町(美馬市)でも「ぎおんこ」があったそうやで。脇町に住んどった知り合いから聞いたことがある。
塩江と脇町は距離が近いので風習も似ていたのでしょうか?
そうかも知れんな。「ぎおんこ」ゆう呼び方も一緒やったし。家に誰かが来たら、同じようにうどんや蕎麦を作って出していたそうや。
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