香川県民のさぬきうどんの記憶を徹底収集 さぬきうどん 昭和の証言

仲多度郡まんのう町・昭和11年生まれの女性の証言

松茸で取ったダシをうどんに!

(取材・文:

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  • vol: 115
  • 2015.11.02

家にうどん作り専用の道具が揃っていた

子どもの頃(昭和10年代終盤~20年代)に家でうどんを作っていましたか?
盆や正月、祭りや法事のときなど、家に誰かがやって来るときに作っていました。父親はうどんを作る達人だったようで、近所に住む知り合いのおじさん達も時々やって来て、父と一緒にうどんを作っていました。それがみんなの楽しみの一つだったようです。
うどんを作る道具なども揃っていましたか?
専用の道具がすべて揃っていました。麺を打つ木の棒や台はもちろんですが、握りやすい柄が付いた四角い包丁、湯がいている麺をまんべんなく掻き回すことができるU字型の棒も。特に包丁は「生地を切りやすくて手や腕が疲れない。形も重さも絶妙」と、父が絶賛していたことを憶えています。 また、土間にあった釜も一般的ではなく、うどん作りに適したものでした。広くて浅い、まるで五右衛門風呂の上半分を切ったような感じの釜でしたが、大きな専用鍋を使って安定した状態でうどんを湯がくことができました。ただ、その釜はうどんのために揃えたものかどうかは分かりません。

生地の足踏みは老人や子どもが担当

うどん作りを手伝うことはありましたか?
ござを敷いて生地を足踏みするのは老人や私たち子どもの役割でした。手を後ろに組んでよく足踏みしたものです。それと、麺を大鍋で湯がいているときに、お湯が吹きこぼれないよう水を差す作業も手伝いました。
お父さんのうどん作りで印象に残っていることは?
麺を打っているときの真剣な表情と、「パタン」という音です。真ん中で折り返している生地を、布団のように一枚に広げる時に台と当たって鳴る音だと思うのですが、小気味よい音を何度も響かせていました。その音が今も耳に残っています。

財田川の上流に小麦を挽いてくれる水車小屋があった

小麦粉はどこで調達していましたか?
家は農家だったため、畑では当然、小麦を作っていました。その小麦を水車小屋で小麦粉にしてもらい、それを使っていました。 水車小屋は、財田川の上流の野口ダムのすぐそばにありました。私も何度かお遣いに行ったことがあります。建物の外には川の水の流れを利用して廻る水車がありましたが、中は小屋というよりはちょっとした工場のような雰囲気で、水車の動力を利用して動く臼がいくつも並んでいました。

挽いてもらった小麦粉は、持参した空の一斗缶に入れてもらって持って帰りました。持ち帰った小麦粉の量は、いつも一斗缶の半分ほどでした。

挽いてもらう代金はおいくらでしたか?
お金は要りませんでした。お遣いで水車小屋に行くとき、お金をもらった記憶はありませんので。代金が要らない代わりに、いくらか小麦粉を水車小屋に取られました。
当時、まんのう町には水車小屋のような製粉所が他にもありましたか?
私はまんのう町の七箇という場所に住んでいましたが、十郷という部落にも粉屋があったと思います。

松茸で取ったダシをうどんに!

作ったうどんはどのようにして食べていましたか?
畑で作った野菜を入れてしっぽくにしたり、生醤油で食べました。しっぽくのダシは基本的には煮干しを使っていましたが、季節によっては松茸を漬け込んでいる醤油系のダシも利用しました。家では松茸の佃煮もよく作っていたんです。その松茸ダシをしっぽくのダシに絡めたり、また生醤油の替わりにも使いました。
なかなか贅沢なダシですね(笑)。
今でこそ、めったにお目にかかれない松茸ですが、当時は近くの山で面白いほど採れました。子どもだった私でも、一日に10本くらい採れることも珍しくありませんでしたよ。だから、うどんのダシや佃煮だけではなくて松茸汁や焼き松茸など、松茸尽くしの料理がズラリと食卓に並ぶこともありました。今では考えられませんが(笑)。

麺を湯がいた茹で汁で髪を洗った!?

うどんに松茸と、美味しい食べ物に恵まれた環境だったんですね(笑)。
でも、決して裕福ではなかったですよ。うどんを作ったときは、湯がいた後の茹で汁でその夜、髪を洗っていましたから(笑)。
エッ!?茹で汁で髪を?
シャンプーやリンスなんていうような高級な物は家にありませんでしたから。糊のようなゆで汁を髪に馴染ませて、しばらく経ってから洗い落とすと、髪がツルツルなめらかになりましたよ(笑)。女性にとって、うどん作りは食べること以外にもそんな楽しみな要素がありました。
うどんはいつ頃まで家で作っていましたか?
昭和30年代に入っても作っていたのを憶えています。嫁に出たので、その後の詳しいことは分かりませんが。家のうどんはもう食べられませんが、子どもの頃に茹で汁で髪を洗ったので、髪は今もフサフサですよ(笑)。
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