さぬきうどんのメニュー、風習、出来事の謎を追う さぬきうどんの謎を追え

vol.1 風習の謎

さぬきうどんと法事の謎

(取材・文:

  • [nazo]
  • vol: 1
  • 2015.07.25

香川では昔から「何かあると、すぐにうどんを食べる」と言われています。その「何か」のトップ3は、「農作業」と「祭り」と「法事」。その中の「法事とうどん」について、多くの証言をもとに紡いでみました。

法事1

95%以上の家で、法事にうどんを食べていた

まず最初に、香川県で、法事にうどんを出す家はどれくらいあるのか? これについて、四国学院大学の学生チーム(大学フリーマガジン『インタレスト』編集部)が2010年に香川県内各地で100軒から聞き取り調査を行ったところ、「法事でうどんを出す」と答えた家が94軒! やはり、香川では「法事にうどん」はマストアイテムです。ちなみに、「法事にうどんを出さない」と答えた6軒は以下の通り。

学生調査より
  • 法事にはうどんを食べない。(さぬき市鴨部・50代・男性)
  • 法事の日にはうどんはお出ししません。(観音寺市大野原町・50代・女性)
  • 七回忌までの法事ではうどんを食べない。(さぬき市長尾町・20代・女性)
  • 七回忌までは法事の日にうどんを食べない。(観音寺市本大町・50代・男性)
  • 七回忌までは法事の日にうどんを食べません。(三豊市三野町・60代・女性)
「昭和の証言」より
  • 以前は法事の日には近所のうどん屋さんから玉を買ってうどんを出していましたが、親戚の数も減り、私も歳をとってこしらえが大変になってきたので、法事を家でなくてお寺でやるようになりました。それと同時に、お昼はどこかの店で部屋を取ってみんなで食事をするようになったので、家でうどんは出さなくなりました。(三豊市詫間町・80代・女性)

「七回忌までうどんを出さない」というのは、うどんに「長いものは不幸を長引かせる」という縁起があるからのようです。また、近年の世代では法事も簡素化されつつあることから、法事に家でうどんを振る舞う習慣はこれから少しずつ減っていくことは間違いないでしょう。しかし、それでも2010年時点でこんなに法事にうどんを振る舞っているとは、さすがうどん王国讃岐。

法事の前日に近所にうどんを配る習慣

では、もう少し具体的に「法事とうどん」の風習を拾ってみましょう。まず、「法事の前日にうどんを配る」という証言が出てきました。

学生調査より
  • 法事の案内には必ずうどんを配る。(まんのう町・60代・女性)
  • 法事の前に近所にうどんを配る。(まんのう町・30代・女性)
  • 法事の前日にうどんを配ります。(善通寺市金蔵寺町・50代・男性)
  • 平成10年頃までは法事の前日にうどんを出していたが、今はする人がほとんどいない。(観音寺市大野原町・60代・男性)
「昭和の証言」より
  • 昭和30年頃、法事がある時には、近所や親戚に「明日、何時からやります」という案内と一緒に家で打ったうどんを持って行きました。持って行く量はそれぞれの家の家族分くらい(1人2玉換算)で、大きな重箱にうどんを入れて風呂敷に包んで持って行き、先方の家で中身のうどんだけを移し替えてもらって、重箱を洗って返してくれていました。うどんを配るのはたいてい子供の役割で、配ったら5円とか10円のお駄賃をもらっていました。(丸亀市川西町・昭和26年生まれ・男性)

この「法事の前日にうどんを配る」と証言したのは、ご覧のように、丸亀市、善通寺市、まんのう町、観音寺市という中讃、西讃地域の人だけでした。サンプル数はまだそれほど多くありませんが、今のところ、これは中西讃の風習である可能性が高いと言えます。

“おつとめ”の前にうどんを振る舞う

では、法事の当日の風習です。まず、「法事に行くと“おつとめ”が始まる前にうどんを食べる」という話が、県内各地からまんべんなく出てきました。

学生調査より
  • 法事でおつとめの始まる前にうどんを振る舞う。(高松市香川町・50代・男性)
  • 両親に聞いたのですが、法事では座ったらお茶より先にうどんが出てくるのだそうです。しかも、とにかくたくさん食べろと。いつも「1人2杯は食べんといかん」と言っておばさんに勧められるそうです。(高松市木太町・30代・男性) 
  • 法事の時は必ず、みんなが集まるまでうどんが振る舞われる。(坂出市池園町・40代・女性)
  • 法事の時に、来客にまず一番にうどんを振る舞う。お茶を出すより先にうどんを出します。(坂出市元町・50代・男性)
  • 法事が始まる前にうどんを食べる。(宇多津町・30代・女性)
  • 法事などの朝には、来てくれた人にうどんを食べてもらう。(丸亀市・30代・女性)
  • 七回忌に関係なく、法事のおつとめ前にはうどんを食べる。(丸亀市土器町・20代・男性)
  • 法事でお経を上げる前にうどんを食べる。(丸亀市飯山町・70代・女性)
  • 法事の前に、施主の家でうどんを振る舞われる。(多度津町・40代・男性)
  • 法事の朝、お客さんにうどんを振る舞っています。(綾川町・40代・女性)
  • 満濃町の法要に招かれていくと、いつもすぐにうどんを出されます。(綾川町・70代・女性)
  • 法事の日の朝は行ったらすぐうどんが出るので、家では朝食を食べずに出かけます。(まんのう町・50代・女性)
  • お経を読む前にうどんを食べる。(三豊市高瀬町・80代・男性)
「昭和の証言」より
  • 法事の時は、おじゅっさんがくる前に、集まった親戚がうどんを食べた。おじゅっさんはお経が終わったら一緒にうどん食べていた。(高松市国分寺町・昭和17年生まれの女性)
  • 昭和30年頃ですが、法事の日は近所の製麺屋からうどん玉を大量に買って、お参りに来られたお客様に振る舞っていました。(高松市国分寺町・昭和28年生まれの男性)
  • 昔は法事が2日間ありました。その初日は法事の前夜祭みたいなもので、夜のお勤めの前にうどんが出ていました。翌朝も、行くとまずうどんが出ますから、大体みんな朝御飯は食べずに行きます。近年はそんな形は減りましたが、西讃に行くほど昔の名残が残っていて、昭和60年頃までは「宵の法事」をやっているところが結構たくさん残っていた。今でも丸亀では法事があると「おうどん出るんな?」と聞いてくる人がいます。うどんが出るなら朝ご飯を食べずに行きますから。(丸亀市・昭和7年生まれの女性)

法事のうどんは「浅いお皿」に「湯だめうどん」が定番?!

さて、その法事で出てくるうどんについて、証言によると、ほぼ全てがかけうどんではなく、「湯だめうどん」で食べていることがわかりました。湯だめうどんとは、茹でたうどんを一旦水で締めてうどん玉にして、それを熱い湯を入れたうどん鉢に移して麺を泳がせ、つけダシにつけながら食べるもの。要するに、熱いつけ麺です。

学生調査より
  • 法事の時に、来てくれた人にまず湯だめうどんを出す(丸亀市綾歌町・20代・女性)
  • 法事の日は必ず湯だめうどんを食べる。(まんのう町・50代・女性)
  • 法事の日は必ず湯だめうどんが出る。(まんのう町60代・女性)
  • 法事や廻り目で食べるうどんは、つけで食べる。かけはダメ。(善通寺市弘田町・40代・女性)

「廻り目」というのは葬式の後の7日ごとの法要のことで、7廻り目がいわゆる「四十九日」です。

「昭和の証言」より
  • 三部経(浄土真宗)の合間に、生麺を湯がいて、浅い皿のお湯の中にうどんを入れた今でいう「湯だめ」を、薬味と一緒につけだしで食べる。お昼には、同じうどんとバラ寿司と漬物でもてなしていた。(高松市国分寺町・昭和28年生まれの男性)
  • 法事に行くと、まず駆けつけ一杯でうどん。うどんは湯だめで、たいてい前日に打っておいたうどんだから麺は伸びてたけど、ショウガとネギと季節の野菜、春先ならフキノトウなどを炭火で焼いてほぐしたのを薬味にして食べていました。(丸亀市川西町・昭和26年生まれの男性)
  • 法事に行くと、まずおうどんをいただいて、おつとめがあって、それから本膳が出ます。お土産もおうどん。法事のおうどんはだいたい湯だめで、これがまたおいしいの!(丸亀市・昭和7年生まれの女性)
  • 法事の日は、お客さんが来たらまずうどんを出して、それからおじゅっさんが来て法事をして、終わったらお墓に行って、お墓から帰ってきたらお膳をする。法事のうどんは「つけうどん」だった。何でつけうどんかって? かけにしたらダシがようかいるきんやがな。(三豊市詫間町・昭和8年生まれの女性)
浅い皿のようなうどん鉢(高松市川島東町 安藤さん提供)。

浅い皿のようなうどん鉢(高松市川島東町 安藤さん提供)。

なぜ法事には湯だめ(つけうどん)が出るのかについて、ほとんどの人が「理由やわからんわ」と言っていましたが、ここで初めて「ダシが少なくて済む」という理由が出てきました(笑)。果たしてその他の理由が出てくるのか、聞き取り調査の行方を待ちましょう。
ちなみに、法事のうどんを食べる時の器にもこんな話が。

学生調査より
  • 法事でうどんを食べる時は、必ず浅い皿に入れてくれた。(高松市仏生山町・50代・男性)
「昭和の証言」より
  • 法事の時のうどんは、ちょっと浅めの平たい鉢に入っていて、そこにうどんがもつれない程度に水が入っていた。それを煮干しでとった濃い色のついたつけダシで食べていた。(高松市円座町・昭和18年生まれの女性)

湯だめではなく、水に浸かった冷やしうどんを食べていたという話も出てきました。では続いて、宗教によってうどんを食べるタイミングが違うという証言の数々を紹介します。

真言宗は「駆けつけ一杯」、浄土真宗は三部経の間にうどんを食べる?!

学生調査より
  • 法事で三部経の合間にうどんを出したことがある。(坂出市府中町・50代・女性)
  • 法事の時に、僧侶の読経の間にうどんを出す。(多度津町・60代・女性)
  • 法事の時は、来てすぐうどん、お経の間でうどん、帰りにうどん玉持ち帰り。(多度津町・50代・女性)
  • 法要の間にうどんを食する。(観音寺市大野原町・60代・男性)
  • 浄土真宗は、おつとめの間にうどんを食べる。(観音寺市豊浜町・60代・男性)
「昭和の証言」より
  • 私の家は浄土真宗ですが、真宗の法事は「三部経」といっておつとめが長いんです。朝8時頃からお坊さんが家に来て、お茶飲んだりしながら準備をして9時頃に「一部」が始まる。「一部」が終わるとまたお茶を飲んで一服して「二部」が始まり、それが終わると大体昼頃になって、そこでうどんが出る。それから「三部」が始まり、それが終わると宴席になって、お寿司や天ぷらやお酒が出て、全部が終わるのは夕方になる。最近はもう少し短くなりましたが、昔の真宗の法事は一日がかりでした。(高松市円座町・昭和18年生まれの女性)
  • 浄土真宗は法事で三部経を読むのですが、それが9時に始まって12時くらいまでかかる。その間で2回休むのですが、最初の休憩の時に「うどんどうぞ」と言ってうどんが出されます。2回目の休憩の時には分厚いカステラが出てきて、さっきうどん食べたばかりなのにそんなに食べられない…と思っていたら、三部が終わったらすぐお膳が出てきてびっくりしたことがあります。最近は全部で1時間半くらいになってきて、昔のやり方をするところは減ってきたと思います。(まんのう町・昭和10年生まれの女性)

聞き取りを進めていっても、真言宗の法事では「おつとめの途中でうどんが出る」という話が出てきませんので、おそらくこれらは浄土真宗だけの「法事とうどん」の関係だと思われます。ちなみに、宗教は不明ですがこんな証言も。

学生調査より
  • 法事終了間際にうどんを食べて終わる。(観音寺市大野原町・50代・女性)

これで、法事の前にうどん、法事の最中にうどん、法事の終わりにうどん、と証言が出揃いました(笑)。しかし、法事とうどんの関係は、まだ終わりではありません。 

法事のお土産にもうどん!

学生調査より
  • 法事の時のおみやげにうどんの玉をつける。(高松市花ノ宮町・40代・女性)
  • 仏事が終わると、お供え物と一緒にうどん玉を持ち帰る。(坂出市府中町・50代・男性)
  • 法事の日にはうどんを食べ、帰りにもうどん玉を持って帰る。(丸亀市山北町・40代・女性)
  • 法事のおつとめの前にうどんを食べ、おみやげにうどん玉を持って帰る。(丸亀市郡家町・50代・女性)
  • 法事にはうどんをダシ、土産にもうどんを持たせる。(多度津町・40代・女性)
  • 法事の時、来ていただいた人にうどんを接待し、おみやげにうどん玉を持ち帰ってもらう。(琴平町・50代・女性)
  • 法事の日はまず最初にうどんを出し、うどん玉をおみやげに用意する。(まんのう町・50代・女性)
  • 法事や命日でお寺さんが来てくださる時は、必ずうどんを出します。法事のお持ち帰りにも生のうどん玉をつけます。(まんのう町・50代・女性)
「昭和の証言」より
  • 法事に行くと、お土産にうどんをもらっていた。3段重ねの重箱のような入れ物に、赤飯やお寿司、天ぷら、茹でたうどん玉が入っていて、それを風呂敷に包んでお土産でもらって帰った。(高松市国分寺町・昭和22年生まれの男性)
  • 綾上の方では、法事のお土産に必ずうどんを持たされました。ただ、高松出身の義母は法事に行ってお土産にうどんを持たされると、「法事にうどんや、とんでもない!(縁起が悪い)」と言って、いつも私に「持ってお帰り」と渡されていました。(まんのう町・昭和10年生まれの女性)

あと、こんな証言も。

  • 仲多度郡の法事に行った時、法事のお供えにみんながうどん玉を持ってきていました。(高松市香川町・40代・女性)

え? 出席者がうどんを持っていくんですか?! 恐るべし、まだまだ何か出てきそうな「法事とうどん」の関係。

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