香川県民のさぬきうどんの記憶を徹底収集 さぬきうどん 昭和の証言

仲多度郡多度津町西浜・昭和22年生まれの女性の証言

多度津町西浜周辺のうどんと“うまいもん”の思い出

(取材・文:

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  • vol: 298
  • 2019.11.21

母親が作る「うどんダシ」がすごくおいしかった!

多度津は港が栄えていたと聞きました。
 そやな、昔は大阪行きの船が出とったかな。賑やかだったよ。花火大会とかもあって。

 うどんは、西浜の近くに製麺所があったな。店で小麦粉から打ってうどん玉を作りよった。「ふくや」だったか「福田」さんだったか、なんか「福」がついとったような気がするけど、名前はあんまり覚えとらん。そこへ小学校の頃(昭和30年代初頭)、うどん玉を買いに行きよったな。「買っておいで」って行かされよったけど、値段は覚えとらん。製麺所やけん、そこでは食べん。玉を買うて、持って帰って食べたわ。あそこは食べさせてはなかったんちゃうかな。玉にして売っじょっただけやと思うで。

 ほんで、買うてきたらダシは家で母親が取って。ダシはイリコやな。それが私の記憶ではものすご美味しかったん。具はネギだけやけど、ダシが美味しかったいう記憶があるな。生醤油でなくって、かけダシ。あったかいやつ。私はかけが好きなん。他に美味しいもん食べてなかったんかいなと思うけど、それはすごく美味しかったなあ。

 家でうどん打ったりはしてなかった。団子汁は親がしよったような気がするけど、うどんは玉買いやな。おうどんをお店に行って食べるいうんもあんまり記憶にないな。行かなんだな。玉を買ってきて家で食べるっていうんやな。

どういう時にうどんを食べていましたか?
 割と日常的に食べよったな。そなに裕福なことはなかったけど、割とよく食べたな。時たま食べるんじゃなくって、割とよく食べた。

 お祭りにも食べよった。あと、お祭りはばら寿司やわ。何かいうたら親がばら寿司を作じょったな。それからダシ作っておつゆ代わりにおうどん。それが定番やわ。うどん玉はあれ、湯がいとったんかな。湯がいとったんを置いとったんかな。

 法事の時もおうどん出とったような気がする。真言や。お勤め終わってちょっとおうどんが出たいうぐらいやけど。

学校の給食でうどんは出ましたか?
 あんまり給食の記憶がないな。ほなけど小学校の時はお弁当持って行ってなかったと思うから、給食やわな。何が出よったんやろか…パンやな。クジラも出たな。クジラは好かんかった。小学校の給食でうどんは…食べたんかもわからんけど覚えてない。

 中学、高校は給食ないわな。お弁当やな。学食にはうどんがあったんかな? 購買部いうんがあったな。でもお弁当持って行きよったから。購買部ではあんまり食べてないからうどんがあったかどうかはわからん。

「かみやま」の天ぷらと、近所のこんにゃく入りお好み焼きがものすごく美味しかった!

当時(昭和30年代)、うどんの他に食べたもので印象に残っているものはありますか?
 その頃、家で食べたもんで一番記憶があるのはカレーやな。「今日はカレーをするけんお肉買って来て」言われてお肉を買いに行くんやけど、「50g買って来て」って言われて行きよったいう記憶が妙に残っとん。50g言うたらちょっとやろ。それを4人くらいで食べるけん、お肉やほとんどないわな。今、50gのお肉や買いよらんわな。だいたいそんなんパックにもないやろ。最低でも100gや。

 あと、美味しかったと思うんは、家の隣にあった「かみやま」さんいうかまぼこ屋さんのかまぼこや長天とかの練り物の天ぷら。その天ぷらがもう、「この世にこれぐらい美味しいものはあるのか」いうぐらい美味しかった! 揚げたてやけんね。そのぬくいやつにお醤油かけて食べたらね、これ以上美味しいものはないと思たな。それはもう、いつまでたっても、今でもその味を食べたいと思うな。

 店なら、その頃近くにあったお好み焼き屋さんが美味しかった。おばあちゃんがしよったん。そのおばあちゃんがコンニャクを甘辛く炊いてな、そのコンニャクを細かく切ったのがお好み焼きに入るんよ。それが妙に美味しかった。甘辛いコンニャク。あれが入るだけでこなに美味しんかというくらい美味しかった。まあ言うたらお肉の代わりかいな。逆に言えば、お肉や入ってなかったんちゃう? ほなけどコンニャクがものすご美味しかったん。鉄板が一つしかない小さい店やったけど、中学、高校の時、学校帰りにようあそこで食べよったな。

最近は玉買いをせずにお店で食べるようになった

 大人になってからも、うどんはよう食べよるで。好きやで。私はかけ専門。ダシが好きなんかな。うん。嫁いできた高松のこの近辺では、「善や」(高松市新田町)のかやくうどん。私、何でもね、気に入ったらそればっかり食べる。あそこのかやくうどんはね、ワカメとかたまごとかナルトとか、鍋焼きみたいなんに入ってるような具材が入っとんよ。ダシはかけダシで。かやくはちょっと高めかな。たぶん500円くらいすんちゃうかな。けど私はそれがお気に入りやけん、いつもそれ食べる。

 今頃うどん屋さん、ものっそ(ものすごく)できたよな。まあ、結局ほら、安いやろ。うどんいうたら、かけやったら250円とか300円ぐらいで食べられてお腹がいっぱいになるやん。都会行って300円でお昼や食べれんやん。ほなけんうどんは安いなと思うよな。ほんで美味しいやろ。県外行ったらうどんは食べんな。

 最近は、玉買うてきては食べんな。家で作って…冷凍うどんくらいや。冷凍うどんやったらダシとって食べるけどな。ほなけどお昼に買い物にも行ってなくて「何もないわ」いうたら、冷凍うどんでダシとるか鍋焼きにするかぐらいはするな。鍋物にしたら最後に入れるし。ほなけん、家で「うどんにしましょう」言うておダシ取って…いうんは緊急の時やな。冷凍うどんを買って置いといて、鍋のシメにするか、補足にするか、ちょっとしかご飯がないわ、とかいう時にな。

 昔は玉買って家で食べるもんやったけど、今は出て行ってお店で食べるもんかな。家でせんようなったね。結婚してからも玉買うて来ておうどんやはしてないな。他のおかずを作るけん、うどん玉買うてダシ取ってするいうんはせんね。

●編集部より…「昭和の昔の香川のうどんは、ごちそうだったのか? 日常食だったのか?」という議論(議論と言うほどではないけど・笑)がありますが、昭和30年代の多度津のこの方のおうちでは「割と日常食だった」とのこと。これまでの証言を見ると、「日常食だった」とか「米がないからしょっちゅううどんやうどん汁で食べていた」とかいう人もいれば、「農作業の節目や祭りや法事などの時だけ」という人や「うどんはごちそうだった」という人までいて、どうも一元的には決められないようです。もっと証言サンプルを集めて精査した上で、時代や地域や職業別に傾向を出してみたいと思います。

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