さぬきうどんのメニュー、風習、出来事の謎を追う さぬきうどんの謎を追え

vol.74 新聞で見る讃岐うどん

新聞で見る平成の讃岐うどん<平成27年(2015)>

(取材・文: 記事発掘:萬谷純哉)

  • [nazo]
  • vol: 74
  • 2023.12.25

ビジネスは店舗展開がさらに活発化、新メニューや新商品も続々と

 全国的な「讃岐うどん巡りブーム」は2000年頃に第一次ピークに達し、続いて映画『UDON』の公開(2006)と「1000円高速」(2009~2011)で2010年頃に最大のピークが到来。そこから讃岐うどん界は“超高値安定期”に入って、5年ほどが経ちました。その5年間の局面を大まかにまとめると、

【うどん店の現場】…ブームを牽引してきた製麺所型の超人気店はますます好調、若手の新しいうどん店も増え、「讃岐うどんテーマパーク」の“人気アトラクション”の一角を占めてきている。大衆セルフ型のうどんチェーン店も県内外で活発に店舗展開を進め、うどん店の新しいビジネスモデルとしてそのスタイルが定着してきた。

【行政】…「うどんブーム」に乗っかって2011年に「うどん県」宣言を行い、加えて組合や団体と一緒になって「さぬきの夢」や「年明けうどん」の普及に務めている。

【その他】…店や企業や団体等が「うどん」に絡めた新メニューや新商品をあちこちで出している。ヒット商品はなかなか出ないが、新聞等でよく紹介されるので一時的に話題にはなっている。

という感じでしょうか。いずれにしろ、2000年頃に始まった空前の「讃岐うどん巡りブーム」が「さぬきうどんビジネスの活性化」にまで波及して、行政や各種団体まで巻き込んであちこちで継続的にいろんなことが行われているという、全国的にも希有な局面が続いています。

 では、平成27年(2015)の新聞に載った讃岐うどん関連ニュースです。
 

ゴールデンウィークのうどん店は例年以上のにぎわい

 まず、ゴールデンウィークのうどん店のにぎわい状況をレポートした記事から。

(5月10日)

県内GW大盛況 うどん店、有名6店で1日1万人超え

 (前略)…讃岐うどんはやっぱりすごかった。県内のうどん店はGW期間中、あちらこちらで開店前から長い列ができ、有名店ともなると、わずか6店舗で1日の来店者が計1万人を超えた。前年より遠方の客が目立ち、あまりの来店者にダシを急きょ作り足した店も。「香川が誇る一大レジャー施設」の根強い人気を裏付けた。

 期間中、1日1000人前後が来店した店は他にもあり、ガイドブックに紹介されるような主要なうどん店だけでも1日数万人が足を運んだとみられる。全国屈指のテーマパークの2014年の入園者は「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」が1日平均約3万5000人、「東京ディズニーリゾート」が約8万6000人。うどん店巡りはこれらに匹敵するような集客力を持つといえる。

 「ここまでお客さんが多かったのは初めて」。坂出市富士見町の「日の出製麺所」。3日は開店の2時間以上前から駐車場が埋まり、これまでで最も早い午前9時半頃に営業を開始。気温もぐんぐん上がり、ぶっかけうどんに注文が集中したため、ダシを何度も作り足すという、経験したことがない大忙し。高松市香川町の「もり家」は、閉店時間になっても行列が絶えなかったため、営業時間を午後10時頃まで3時間延長。綾川町羽床上の「山越うどん」では5日、1日で約2700人が訪れた。県外客は消費税増税直後だった昨年、中四国や関西など近県が中心だったが、ガソリン価格の値下がりもあってか、今年は東海や九州など遠来からの大勢の家族連れらも”うどん県”の本場の味を堪能した。

 ゴールデンウィークのうどん店集客数を「TDLとUSJと比較する」という切り口で来ました(笑)。うどん店の集客数は概算の数字ですが、周辺人口の規模の差を考えると、「讃岐うどんテーマパーク」は「日本三大テーマパーク」の一つと言っても過言ではない…かどうかわかりませんが、全国の自治体の中では胸を張れる集客力であることは間違いないでしょう。しかも、それがここまで15年以上続いていて衰える気配すらないという凄さです。

 その結果かどうか、こんなデータが発表されて、また全国的に話題になりました。

「食べログ・ベストレストラン2014」で香川はうどん店が上位を独占(笑)

 「食べログ」が都道府県別の「ベストレストラン2014」を発表したのですが、香川は選ばれた10店舗が全て「うどん店」という結果に(笑)。

(5月4日)

「食べログ」都道府県別ランキング 名物料理はうどんだけ? 異例の結果に関係者困惑

 飲食店の人気口コミサイト「食べログ」は都道府県別の「ベストレストラン2014」を今年2月、発表した。他都道府県は和食やすしなどさまざまな分野から選出されたが、香川は選ばれた10店舗が全てうどん店という結果になり、関係者は困惑している。

 食べログを運営するカカクコムによると、1年間の利用者の評価を基に点数化し、ランキングを作成。一つの分野だけで構成されたのは香川だけだという。過去には、すしや天ぷらなどの飲食店も入っていた。今回の結果がうどん店に偏ったことについては「その土地の料理は選ばれやすい傾向があり、香川のうどんがブランドとして全国的に認知されている表れと考えられる」と説明。…(中略)…

 県は、うどんと観光をセットにした企画などで香川の魅力をわかりやすく伝える一方で、「うどん県。それだけじゃない香川県」のキャッチコピーを掲げたPRにも同時並行で取り組んできた。今回の結果について、県の担当者は「評価されたようでうれしい半面、香川にはうどんしかないと思われてしまうのは残念」と話す。…(以下略)

 普通に考えれば、香川県の「ベストレストラン」はいろんなジャンルにまたがってそれなりにたくさんあるわけですが、アンケート結果というのは回答者の属性に大きく左右されるものですから、これはおそらく、「食べログ」に評価を書き込むユーザーが「うどん店以外の“ベストレストラン”にあまり行っていない」か、「うどん店以外の“ベストレストラン”の味や店をうまく評価できない」といったことが主な原因だと思います。「香川はうどんしか評価されなかった」のではなく、「食べログユーザーの多くがうどん以外のレストランを評価できなかった」というところでしょう。

 ただし、「うどん店の評価」については、香川県民の多くはやっぱり「タダ者ではない」というニュースも出てきました。

「丸亀製麺」の栗林公園店が閉店

 県外資本のうどんチェーン最大手の「丸亀製麺」が、栗林公園店を閉店することになりました。

(1月10日)

「本場、厳しかった?」 丸亀製麺、県内1号店閉店へ

 県外資本の讃岐うどんチェーン最大手「丸亀製麺」の県内1号店・栗林公園店(高松市室新町)が18日に閉店する。「本場・香川」へ進出してからわずか3年。迎え撃つ形となっていた地元うどん店からは「本場ではやはり厳しかったのか」との声が上がっている。

 丸亀製麺は外食大手のトリドール(神戸市)が2000年から全国展開し、讃岐うどんブームに乗って店舗網を急拡大。9日現在、国内に781店、海外に82店を出店している。県内では現在、3店舗を展開。1号店となった栗林公園店は12年1月にオープンした。開店当初は「最大手がついに本場に進出した」と注目を集め、多くの人が来店したが、最近では平日には駐車場に空きが目立つようになっていた。トリドールは消費税増税後の消費の低迷などから、本年度から店舗網の見直しに着手。栗林公園店の閉店も「売り上げや立地などから判断した」と説明する。

 近くの複数のうどん店は「丸亀製麺がオープンして以降も売り上げは落ちていない」と口をそろえ、高松市の中央通りに面し、広い駐車場を備える立地に「相当の固定費がかかるのでは」と推し量る店主もいる。店舗跡地には、焼き鳥店やカフェなどを運営するノウハウを生かし、他業態の飲食店を出店する方針。香川を「憧れの地」としている同社は「味への反応など、舌の肥えた本場のお客さんから学べたことは多かった」としている。

 栗林公園店が「丸亀製麺の県内1号店」とありますが、厳密には平成19年(2007)に高松市香西本町のイオンモール高松のフードコートにできた「亀坂製麺」が最初の丸亀製麺の店(「平成24年」参照)。「亀坂製麺」がオープンした時には「丸亀製麺」はすでに全国に100店舗以上展開していましたが、香川の店だけ「亀坂製麺」という店名でした。その理由については「丸亀市に『丸亀製麺』という製麺会社があったからだ」と言われていますが、その丸亀市の「丸亀製麺」がまだ健在だった平成24年(2012)に「亀坂製麺」は「丸亀製麺」に名称変更していますので、そのあたりの事情はよくわかりません。その後、栗林公園店に続いてイオンモール高松内の丸亀製麺も閉店し、令和5年(2023)時点で香川県内の「丸亀製麺」はレインボーロードの1店だけになりました。

「たも屋」がアジア圏への出店を加速する

 一方、県内うどん店の海外進出について、「『たも屋』の動きが活発化している」との記事が載っていました。

(9月9日)

「たも屋」、アジアで店舗展開加速 現地資本とFC契約

 うどん店経営の「たも屋」(高松市)はアジア地域での出店を加速する。シンガポールに続き、8月末にはインドネシア1号店となる店舗をジャカルタにオープン。今後は現地資本とのフランチャイズ(FC)契約で出店スピードを速め、2016年3月までに10店舗、17年末には店舗網を70店舗まで増やす計画だ。「たも屋」は13年3月にシンガポールに2、3号店を相次いでオープンした。各店では香川から小麦粉やだしなどの原料を輸送して本場の味を忠実に再現。さぬきうどんの特徴のセルフ方式を持ち込み、天ぷらのトッピングを自由に選べるスタイルも現地の人たちに人気を得ている。インドネシア1号店は8月28日にジャカルタ北部の大型ショッピングセンター内にオープン。150席を有する大規模店で、シンガポールの3店舗同様、セルフ方式を採用する。オープン初日から多くの来店客でにぎわっているという。

 たも屋は海外進出に合わせ、飲食店の海外展開を行うジャパン・フード・カルチャー(シンガポール、JFC)とFC契約を結び、うどん店経営のノウハウを提供。シンガポールの3店舗はJFCが運営していたが、インドネシアの店舗はJFCが現地オーナーとさらにFC契約を結んで出店した。今後は現地資本を活用するこの方式で出店を加速する。JFCは既にベトナム、台湾でも現地オーナーとFC契約を結び、出店準備を進めている。「たも屋」は「アジアに限らず、北米など他地域での店舗展開も目指したい」としている。

 「セルフうどんチェーンの全国、世界への店舗展開」という、昭和の時代には想像もつかなかったビジネスモデルがどんどん広がっています。これも「さぬきうどんブーム」の大きな功績の一つであることは間違いありません。

「年明けうどん大会」で発表した「うどんかるた」で一騒動が…

 ではここから「うどん関連イベント」の記事。まず、恒例イベントで一番大きく紹介されていたのは、前年に始まった「全国年明けうどん大会」でした。

(12月13日)

人気店の味 食べ比べ 全国年明けうどん大会 1万7000人来場 「うどんかるた」披露も

 ご当地うどんを集めた「全国年明けうどん大会2015inさぬき」が12日、高松市林町のサンメッセ香川で始まった。県内外の人気店が工夫を凝らした年明けうどんを販売し、俳優でうどん県副知事の要潤さんは県オリジナルの「うどんかるた」を披露。会場には約1万7000人が詰め掛け、好みの一杯を楽しんだ。…(中略)…

 会場には全国17道府県の人気店と、店主が香川で修業したという台湾のうどん店を合わせた25ブースがずらりと並び、県内外から訪れた大勢のうどんファンが長い列をつくった。イベントでは、年明けうどん普及委員会が作成した「うどんかるた」を要さんが披露した。五七五の形式で書かれた読み札は、全国から応募のあった2909点の中から選んだ「年明けの うどんに紅い縁起物」や「離乳食 うどんで育つ元気な子」など、「あ」から「ん」までの46枚。…(以下略)

 「全国年明けうどん大会」は毎年12月に開催されるようですが、「年明けにやるうどん大会」ではなく、「年明けうどんを紹介する大会」ということですね。で、今回の目玉の一つが「うどんかるた」。これは、県が事前に「うどん」をテーマにした『かるた』の句を一般から募集して、10月頃に選考が行われて採用作品が決定していたものですが、それを実際に「うどんかるた」に作り上げて発売すると発表したところ、その句の一つにクレームが寄せられて、一騒動が起こりました。

(12月16日)

「うどんかるた」県発売延期

 県、年明けうどん普及委員会は15日、年明けうどんのPR目的で制作し、同日予定していた「うどんかるた」の発売を延期すると発表した。「つ」の読み札の句「強いコシ 色白太目 まるで妻」について、外部から「悪いイメージで受け取られかねない」と指摘が寄せられ、再検討の必要があると判断したため。今後、有識者らの意見を聞き、差し替えも含めて方針を決めるという。…(中略)…

 県は10月末にも、県産米「おいでまい」をPRするイメージガールの募集で「色白でスタイルのよい方」と記載し、不適切との指摘を受け撤回している。今回の句は10月初旬に最終決定していたが、「おいでまい騒動」の際にも、関係者の間で疑問を呈する声は出なかったという。同課は「うどんのよい面や特徴を捉えたユーモアのある句だと評価したが、女性の容姿をからかっているようにも受け取れるという意見が寄せられた。受け止め方はいろいろあると思うが、年明けうどんのイメージが悪くなるのは本意ではなく、再検討したい」としている。…(以下略)

 「強いコシ 色白太目 まるで妻」の句にクレームが来たそうです。「これが昭和の時代ならお咎めなしだったのでは?」とか「サラリーマン川柳ならOKだったのでは?」といった話も聞きましたが、ご時世柄、県も敏感になったようで、「再検討したい」と言って発売延期を決定。しかし重箱の隅を突くようなクレームをすべて受け入れていたら“言葉狩り”みたいなことがどんどんエスカレートしていくのでは…という懸念もあったところ、県は検討の結果、「そのまま行く」という結論を出しました。

(12月23日)

「うどんかるた」変更せず 県など、26日から発売

 県、年明けうどん普及委員会は22日、読み句を再検討するために発売を延期していた「うどんかるた」について、差し替えは行わず、26日から原案のままで発売すると発表した。

 かるたでは、「つ」の読み句「強いコシ 色白太目 まるで妻」について、外部から「悪いイメージで受け取られかねない」と指摘があり、県の担当部局や有識者らで作る選定委員会で再検討していた。その結果、
▽うどんと同様に妻を慈しむ気持ちがこもっており、全体としては良作。
▽さまざまな解釈はあると思うが、作者の意図を尊重すべきだ。
などの意見があり、委員会の全会一致で原案維持を決めた。県によると、発売を延期してから21日までに113件の意見が寄せられ、7割強が「そのまま発売すべき」など肯定派、3割弱が句の修正や差し替えを求める内容だったという。…(以下略)

 「毅然とした対応をとった」と言えばそうですが、「妻を慈しむ気持ちがこもっており…」というのはどうでしょう(笑)。また、「作者の意図を尊重すべき」というのも、もし悪意のある意図を持った作品が寄せられたら、そこは意図を尊重して採用するのではなく、選考段階で外すのが筋ですから、理由としてはちょっと危ういところ…。しかしいずれにしろ、騒動はそれ以上には大きくなりませんでした。

「うどんフェス」と「うどんルーツサミット」

 その他の恒例イベントでは、2月7~8日に第25回「坂出天狗まつり」が開催され、おなじみの「天狗うどん」が振る舞われました。続いて11月15日に「創作ドジョウうどん」を集めた第22回「どじょ輪ピック」も予定通り開催。「七宝具うどん」を振る舞う東かがわ市の第7回「どんと恋まつり」は5月に開催予定でしたが、残念ながら悪天候で中止になりました。

 あと、新たなイベントの紹介記事が2本見つかりました。1つ目は、高松青年会議所が開催した「うどんフェス’15」。

(9月4日)

うどんと音楽がコラボ 5、6日、高松でフェス

 讃岐うどんと音楽をコラボレーションさせたイベント「うどんフェス’15」が5、6の両日、高松市のサンポート高松多目的広場などで開かれる。初日は、高松市出身のギタリスト小倉博和さんが作曲した「うどん踏みダンス」のキッズダンスで幕開け。…(中略)…午後5時からはうどん生地を踏みながら観覧できるライブもある。6日はうどんの長さの最長記録1700メートルに挑戦する催しも実施する。両日とも、さぬきうどんやうどんバーガーなどの飲食ブースが出展する。…(中略)…香川の観光交流人口を拡大しようと、高松青年会議所が初めて開催。…(以下略)

 「うどん踏みダンス」に「ギネスに挑戦」という、青年会議所がやりそうな企画(笑)ですが、「ギネスに挑戦」の方は残念ながら雨天で「798メートル」に規模が縮小されたとのことです。

 続いてもう一つ新聞に紹介されたイベントは、奈良県で行われた「うどんルーツサミット」。

(9月20日)

奈良でうどんサミット ルーツ候補に名乗り

 平安時代に春日大社で振る舞われたとされる麺を再現した「春日餺飥(はくたく)うどん」をPRしようと、奈良市のNPO法人が19日、「うどんルーツサミット」を同市内で開いた。論争がある“うどん発祥の地”候補として注目を集める狙いもある。

 藤原実資の日記「小右記」には平安時代の989年、一条天皇が春日大社を訪れ「餺飥」と呼ばれる麺を食べたという記述がある。NPO法人「奈良の食文化研究会」がこれに注目し、春日大社の監修の下で「餺飥うどん」を開発した。基調講演した奈良県在住の伝承料理研究家・奥村彪生さん(77)は「奈良の新名物として、観光資源になるよう育てて欲しい」と期待。会場からは「特徴がわからない」「味も磨かないといけない」と厳しい声も出た。坂出市で製粉会社を経営する吉原良一さん(58)も出席し、讃岐うどんの歴史を紹介。「みんなで案を出し合い、よりよいものを作り上げて欲しい」とエールを送った。うどんのルーツとしては香川説や福岡説が有名で、京都説も広まりつつある。

 「うどんのルーツ」に奈良県が名乗りを上げました。根拠は「平安時代に一条天皇が奈良県の春日大社で『餺飥(はくたく)』という麺を食べた」という史実だそうですが、記事から見る限り、どうも会場からの反応はイマイチだったようで…(笑)。ちなみに、山梨県の「ほうとう」は漢字で「餺飥」と書き、そのルーツはこの「餺飥」にあると言われているそうです。なお、この「うどんルーツサミット」で基調講演を行った奥村先生は「京都の禅寺発祥説」を唱えておられますが(「平成21年」参照)、法隆寺のある奈良県のイベントだけに、きっと講演は“玉虫色”に締められたことでしょう(笑)。

善通寺の「乃木うどん」と多度津の「鍋ホルうどん」が活動中

 県内で売り出し中の“ご当地うどん”の話題が2つ。まずは、善通寺市の「乃木うどん」。

(1月12日)

善通寺商議所青年部が「乃木うどん」再現 新名物アピールに意欲 地域活性へ取り組み多彩

 (前略)…イベントを主催したのは善通寺商工会議所青年部。昨年から創部30周年記念事業として各種イベントを企画・開催している。中でも一押しは、旧陸軍第11師団長だった乃木希典大将が兵士食として推奨した通称「乃木うどん」。つきたての餅や柔らかい鶏肉をのせた栄養価の高いうどんで、大将が赴任した際、兵士の健康増進を願って考案したというメニューだ。同青年部はこれに着目し、復活させた。

 手始めに、文武両道を実践した乃木大将にあやかって「合格祈願! 陸軍乃木うどん」として販売したところ好評で、市内を中心とした12店余のうどん店のメニューにも加わったという。乃木うどん復活部会長の山下孝太郎さんは既にブームを予感し、「新たな名物として育てたい」と意欲を見せる。…(以下略)

 記事では善通寺商工会議所青年部が「乃木うどん」を初めて復活させたように書かれていますが、「乃木うどん」が登場したのはこの6年前の平成21年(2009)。元自衛官の前川さんが乃木大将のうどんエピソードを発掘して「乃木うどん」として復活させて自衛隊員に振る舞ったのが最初で(「平成21年」参照)、以降、新聞にも何度か紹介されていました。ま、いずれにしろ「乃木うどん」は長く静かにプロモーションされているようです。

 続いて、多度津町の有志がご当地B級グルメとして売り出し中の「鍋ホルうどん」が、全国イベントに参加しました。

(1月26日)

「多度津鍋ホルうどん」は25位 全国グランプリ

 全国のご当地鍋を一堂に集めた「ニッポン全国鍋グランプリ2015」が24、25日、埼玉県和光市で開催され、岩手から沖縄までの23都県50チームが自慢の味を競った。食べ終わった容器が1票となり、客が好みの鍋に投票。優勝は3145票の「もちぶた炙りチャーシューバージョンとん汁」(千葉)で、準優勝は2825票の「白川郷平瀬温泉飛騨牛すったて鍋」(岐阜)、3位は1718票の「農家直伝麓山高原豚のもちとろキノコ鍋」(福島)だった。県内から参加の「多度津鍋ホルうどん」は653票の25位。…(以下略)

 上位は「もちぶたチャーシュー」「飛騨牛」「高原豚」と並んでいて、「鍋グランプリ」というより「ご当地肉グランプリ」みたいな結果になっていますが(笑)、「鍋ホルうどん」もホルモン入りで微妙に「肉」です。いずれにしろ、「鍋ホルうどん」の全国デビューは「うどんイベント」ではなく、「ニッポン全国鍋グランプリ2015」という鍋物イベントでした。

 そしてその後、一過性のメニューにするまいと、いろいろ動き始めたようです。

(9月10日)

多度津名物「鍋ホルうどん」PR、JR多度津駅前に屋台オープン

 多度津が誇るB級グルメ「鍋ホルうどん」を町内外にアピールしようと、多度津鍋ホルうどん普及委員会(内海武彦会長)は10日、多度津町栄町のJR多度津駅前にアンテナショップを開設する。駅北側の町有地に移動式のキッチンカーを設置し、芝生上にパラソル付きの簡易テーブル席を用意して屋台方式で味わってもらう。…(中略)…

 「鍋ホルうどん」は牛肉が高価だった1957年頃、町内の老舗焼肉店が旧国鉄の多度津工場の職員らに「安くてうまいものを」と「鍋ホルモン」を考案し、シメとしてうどんを入れたのが始まり。その後、忘れられていたと言うが、焼肉店では常連客の裏メニューとして提供し、2008年にB級グルメとして見直された。現在、提供しているのは町内で4店のみ。観光客の問い合わせが多かったことから、アンテナショップを開設して町の玄関でPRすることにした。営業は来年1月末までの予定。…(以下略)

 多度津駅前に季節限定の屋台を出店。その後、多度津町内に「鍋ホルうどん」を出す店が何軒か出てきました。

 ではここで、これまでに出てきた“県内ご当地うどん”を、プロモーション開始年の古い順に並べてみましょう。

●平成3年(1991)…「天狗うどん」(坂出市)
 10種類の具を入れたうどん。平成3年にうどん店の「町川」が考案し、平成5年から坂出市の「天狗まつり」で毎年振る舞われている。

●平成5年(1993)…「どじょううどん」(さぬき市)
 どじょうが入った打ち込みうどん。平成5年に長尾町造田地区コミュニティー協議会などの主催で「造田どじょう味くらべ大会」が開催され、平成6年からは「どじょ輪ピック」と改称して創作ドジョウうどんコンテストが続いている。

●平成11年(1999)…「ひょうげうどん」(高松市香川町)
…黒豆の甘煮を5粒入れたうどん。平成11年に「ひょうげまつり保存会」が作り、「ひょうげまつり」で振る舞われている(「平成11年」参照)。

●平成20年(2008)…「鍋ホルうどん」(多度津町)
 「鍋ホルモン」にうどんを入れたメニュー。1957年頃に地元焼肉店が考案し、平成20年に地元有志がB級グルメとして再興(平成23年」参照)。

●平成21年(2009)…「乃木うどん」(善通寺市)
 乃木大将が考案したという、餅と肉を載せたうどん。平成21年に元自衛官の前川さんが再現しメニュー化。

●平成22年(2010)…「七宝具うどん」(東かがわ市)
 地元産4種類を含む7種類の具材と薬味を使ったしっぽくうどん。平成22年に東かがわ青年会議所が考案し、「どんと恋祭り」で毎年「創作七宝具うどん」のコンテストが開催されている。

 このうち、どこかの店で食べられるのは「天狗うどん」「どじょううどん」「鍋ホルうどん」「乃木うどん」の4つで、「ひょうげうどん」と「七宝具うどん」はイベント仕様。ただし、店で食べられる4つの“県内ご当地うどん”も食べられる店の数は少なく、なかなか“地域の定番メニュー”にまでは成長しないようです。

伊吹島の「しまうどん」、宇多津の「古代米さぬきうどん」も登場

 続いて、新たに出てきた“県内ご当地”のうどん商品が2つ。

(3月9日)

伊吹いりこでおいしく 観音寺、消費拡大へ試食会 しまうどん、パエリア堪能

 観音寺の地域ブランド「伊吹いりこ」の消費拡大を目的としたイリコ料理試食会が観音寺市有明町の料理旅館で開かれ、約80人が同市内の業者が開発した伊吹いりこを使った商品や家庭で手軽にできる料理を堪能した。漁協や観光団体などで作る「観音寺・伊吹いりこ普及推進協議会」が毎年開いており、今年で5回目。…(中略)…イリコをうどん生地に練り込んだ「しまうどん」や「イリコ酒」、「いりこ飯の素」という調味料を使って調理したパエリアなどを試食した…(以下略)

 うどんの生地にイリコを練り込んだ「しまうどん」なる商品が出てきました。「観音寺・伊吹いりこ普及推進協議会」は平成26年(2014)から「伊吹いりこマルシェ」というイベントを毎年開催しているそうですが、そこから生まれた「しまうどん」は、のちに半生うどんの商品にもなりました。

 続いてもう一つは、記事にはなっていませんでしたが、広告で出ていた宇多津町の「宇多津古代米讃岐うどん」。

 前年に「かがわ県産品コンクール」で優秀賞になった半生麺の新商品で、かつて宇多津町で作られていた古代米(黒米)の米粉を10%ブレンドしてあるそうです。

うどんコラボメニューや商品も続々と

 続いて、香川のブランド肉とうどんのコラボメニューが2つ。

(5月28日)

香川への誘客促進 「オリーブ牛うどん」販売 県、はなまる、ジェットスターが共同プロジェクト

 香川県とうどんチェーン「はなまる」(東京)、格安航空会社ジェットスター・ジャパン(千葉県成田市)は連携し、香川への誘客を図る「本ごしプロジェクト」に取り組む。県が全面協力し、2社が共同開発した「オリーブ牛うどん」を都内などで限定販売し、香川の魅力を発信して一層の誘客につなげる。…(中略)…オリーブ牛うどんは、甘辛く煮たオリーブ牛をのせたつけ麺タイプのメニュー…(以下略)

(7月7日)

うどんと骨付鳥の夢のコラボ 津田の松原SA、10日から限定販売

 高松自動車道「津田の松原サービスエリア」は、骨付鳥を丸ごと1つ乗せた讃岐うどん「骨付鳥うどん」の商品化に成功。10日から期間限定で販売する。…(中略)…骨付鳥うどんは骨付鳥の「ヒナ」1つと付け合わせのキャベツを乗せた豪快な一品。ガーリックチップをトッピングすることで、うどんダシと鶏の脂がマッチした濃厚な味わいに仕上がった。価格は1杯1000円。…(以下略)

 さらに、こんな単発のコラボ商品も。

(4月25日)

「釜玉うどん風」ランチパック登場

 山崎製パン(東京)の定番商品「ランチパック」の惣菜パンシリーズに「釜玉うどん風」が登場し、会員制交流サイト(SNS)などで全国的に話題になっている。企画したのは香川大農学部生で作るサークル「ASUS(エーサス)」。…(中略)…山崎製パンはこれまで全国の大学など約40校と共同企画商品を開発してきたが、中四国の国公立大学との連携は初めて。…(以下略)

(6月26日)

中元商戦本格化 「ジュレうどん」や海の幸セット

…(前略)…高松市内の百貨店は「涼」がテーマ。うどんダシと伊吹島産の煮干しを組み合わせたジュレとオリーブオイルで味わう「ジュレうどん」を提案している。…(以下略)

 そしてついにペット用のうどんまで、しかもいきなり2社から発売されました。

(4月26日)

ペットフードに新タイプ 犬・猫用讃岐うどん

…(前略)…犬と猫用の讃岐うどんを売り出すのは、多度津町とまんのう町にペットショップを展開する「トゥエンティワン」。塩の代わりにパルメザンチーズやミルクパウダーを小麦粉とともに練り、油で揚げてカリカリと食べられる。…(中略)…うどんの製造販売を手掛ける「瀬戸内讃岐工房」(善通寺市)は、見た目も人間用のうどんと変わらないペット用のうどんを販売する。その名も「ドッグヌードル」。減塩したゆで麺に、麺つゆもついた本格派…(以下略)

 以上、この年はうどん関連の新メニューや新商品がこんなにたくさん新聞に載っていましたが(うどん以外のニュースが乏しかった年なのかもしれませんが・笑)、とにかくあちこちであれやこれやと動いていた様子が窺えます。あと、「うどんの怪獣」の話題もありました。

(8月14日)

「ご当地怪獣」続々登場 42都府県44体 香川は「ウードン」がPR

 香川にうどんの怪獣「ウードン」が出現、大阪ではおばちゃん怪獣「ヒョウガラヤン」が大暴れ。その土地ならではの特徴や観光名所、特産品の名称をもじったユニークなご当地怪獣がこの夏、各地で登場している。…(中略)…仕掛け人は、特撮技術を手掛けるフィギュア造形作家の村井さだゆきさんら。「地域に愛される怪獣を作りたい」とデザインや生い立ちストーリーを創作し、広告会社の協力も得て昨年4月から特設サイトで公開。12日現在で42都府県の44体に達した。…(以下略)

ウードン

▲当編集部スタッフが持っていた「ウードン」のフィギュア(笑)。

「さぬきうどん未来遺産プロジェクト」始動

 本稿「さぬきうどん未来遺産プロジェクト」が始まったのもこの年です。

(7月28日)

讃岐うどんの歴史、後世に お年寄りの証言、データベース化 プロジェクト始動

 讃岐うどんの過去と今を証言とデータで後世に残す試み「さぬきうどん未来遺産プロジェクト」が27日、スタートした。県内のお年寄りやうどん店主らから聞き取った讃岐うどんの歴史や文化に関する諸情報を集積し、特設のホームページで公開。次世代への継承につなげる。プロジェクトは、うどん店チェーンの「はなまる」が協賛。四国学院大教授で麺通団団長の田尾和俊さんや、映画監督で丸亀市出身の本広克行さん、宮武うどん大将の宮武一郎さんがエグゼクティブ・ディレクターを務め、県内のフリーライターが取材に当たる。

 27日に東京都内で記者会見があり、はなまるの成瀬哲也社長は「高松市内に1号店をオープンして15年。学術的にまとめられる機会が少なかった讃岐うどんの歴史を多くの人に知ってもらいたい」とあいさつ。田尾さんは立ち上がったホームページを紹介しながら「讃岐うどんの過去の情報はお年寄りの頭の中にある。人海戦術で発掘し、証言のデータベースをつくりたい」とプロジェクトへの意気込みを語った。…(以下略)

 讃岐うどんブームが大きくなるにつれ、各所で思い思いのいろんな「讃岐うどんの過去」が語られるようになっていたこともあり、「はなまる」の成瀬社長の英断で「ファクトベースの讃岐うどんの過去の発掘・編纂」という、どこかにありそうで、誰もやっていなかったプロジェクトが始まりました。

 ちなみに、この「ファクトベースの讃岐うどんの歴史編纂」というプロジェクトの記者発表があった約2カ月後の四国新聞に載っていたのが、県内の著名な方による「全国ブーム生んだ官民タッグ」と題したコラムですが、その内容を抜粋すると、

(10月1日)

全国ブーム生んだ官民タッグ 「うどん県」誕生

 (前略)…2003年4月、当時は四国学院大学教授の田尾和俊さんの単行本『恐るべきさぬきうどん』がきっかけで、製麺所などマニアックなうどん店に観光客が訪れるようになっていた。しかし、地元では「うどんは観光ではない」との見方が大半。讃岐うどんの知名度もまだ全国区ではなかった。…(中略)…私たちは讃岐うどんの東京進出を企てた。全国区になるには東京からの情報発信が欠かせない。JR四国グループのうどん店「めりけんや」を東京に出店する計画を立て…(中略)…恵比須駅の「めりけんや」はオープン当初から大繁盛。新橋、上野、秋葉原と立て続けに出店し、店舗数はピークには10店を超えた。

 ちょうど同じ頃、「はなまるうどん」も東京に進出した。駅の「めりけんや」、ロードサイドの「はなまる」。東京で讃岐うどんブームが巻き起こった。マスコミでも取り上げられ、讃岐うどんの名は全国に広まった。その後、県の「うどん県」プロジェクトが大成功。香川の知名度は一気に高まった。…(中略)…官と民のタッグプレー。「うどん県」はその典型だったような気がする。

…という記述がありました。要するに、2003年頃の讃岐うどん界は「製麺所などマニアックなうどん店に観光客が訪れていた」程度の知名度であり、讃岐うどんの名が全国に広まったのは「めりけんや」や「はなまる」の東京出店と県の「うどん県」プロジェクトがきっかけだとのことですが、本稿でこれまで紹介してきた通り、1990年代後半から全国ネットの雑誌やテレビ番組が盛んに「讃岐うどん巡り」を取り上げて2000年に入ると全国的な「讃岐うどん巡りブーム」が巻き起こっていたことが新聞に何度も載っていますので、そこはかなり大きな思い違いがあります。

 また、この頃、業界の権威筋の方々からも「讃岐うどんブームは業界の先人たちのたゆまぬ努力が実を結んで起きた」という発言もメディアで紹介されていて、何やら「うどん県」宣言以降、権威筋の方々から「ブームの経緯」について“新説”が表に出て来始めた感がありました。しかし、権威のある方々が権威ある新聞に書かれたり発言されたりすると、どうしてもその「思い違い」の方が「正しい歴史」のようになっていくというのも世の常なので、ここに微力ながら、なるべくファクトベースの「讃岐うどんの過去」を残しておこうというのが「讃岐うどん未来遺産プロジェクト」の趣旨です。とは言え、本稿にも思い違いや事実誤認がないとも限りませんので、間違いがありましたらご指摘いただければ幸いです。

うどん関連の新聞広告はますます減少

 この年の新聞に載ったうどん関連広告は19本。うどん店の広告は全て何かの協賛広告で、単独広告は「宇多津古代米讃岐うどん」と「年明けうどん」のみでした。

<県内うどん店>
【高松市】

「のぶや」(高松市香南町)……………1本
「さぬき麺業」(高松市松並町)………1本
「愉楽家」(高松市林町)………………1本
「うどん棒」(高松市亀井町)…………1本
「松下製麺所」(高松市中野町)………1本
「山田家」(高松市牟礼町)……………1本

【中讃】

「日の出製麺所」(坂出市富士見町)…1本
「塩がま屋」(宇多津町)………………1本
「おか泉」(宇多津町)…………………1本
「めりけんや」(宇多津町)……………1本

<県内製麺会社>

「石丸製麺」(高松市香南町)…………3本
「藤井製麺」(三木町)…………………2本

<その他>

「さぬきうどん技術研修センター」……1本
「中野うどん学校」(琴平町)…………1本
「宇多津古代米讃岐うどん」(宇多津町)…1本
「年明けうどん」(香川県)……………1本

(平成28年に続く)

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