さぬきうどんのメニュー、風習、出来事の謎を追う さぬきうどんの謎を追え

vol.20 新聞で見る讃岐うどん

新聞で見る讃岐うどん<昭和37年(1962)>

(取材・文:  記事発掘:萬谷純哉)

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  • vol: 20
  • 2020.02.03

長雨で麦作が大被害

 昭和37年のうどん記事は“小休止”という感じで、コラム等に「うどん」の文字がチラッと出てきた程度でした。一方、激動の時代を迎えている「麦作」は、この年、長雨で大きな被害を受けました。ちなみに、香川の麦作は翌38年にさらに壊滅的な打撃を受けることになるのですが、そのあたりは次項で確認することにして、さっそく昭和37年の四国新聞に載った「うどん」関連記事をいくつかと、加えて麦作の情勢及び観光関連記事等を拾ってみましょう。

「半夏にうどん」ではなく、「“さなぶり”にうどん」だ

(1月27日)

海産物が好評 宇都宮の四国物産展

 「四国の観光と物産展」が23日から6日間の予定で栃木県宇都宮市のデパートで開かれているが、25日香川県観光物産東京斡旋部から県商工観光課に入った連絡では、香川県からの出品は大好評で、エビ、小魚の塩干物など食料品を中心に約60万円相当が出されていたのが、2日目の24日にはほとんど売り切れ。また、24日始めた手打ちうどん製造実演の売れ行きも、当初1日200人分を予定していたのが500人が押しかけ、瞬く間になくなった。

 「物産展で手打ちうどん実演」の記事が四国新聞紙上に初めて登場したのは昭和31年の4月。東京新宿三越で開催された「香川の食料品展示即売会」の会場で「手打ちうどんの実演が大変な人気を呼び、飛ぶような売行き」だったと紹介されたのが最初です。ただし、「昭和31年」の項でも触れたように、「飛ぶように売れた」のがそこで手打ちした「生麺」なのか、あるいはそこでゆでた「うどん玉」なのか、はたまた「ダシや薬味を入れたかけうどん」をその場で食べさせたのか…そのあたりが依然として明確に書かれていません。まあ普通に考えれば「かけうどん」を出していたのだろうと思いますが。

 次は、郷土史家の草薙金四郎さんの寄稿の中に、サラリと「湯だめうどん」の文字が出ていました。

(6月29日)

讃岐風土記(80)草薙金四郎

 私の小学時代の恩師、行成甚九郎先生、中学の恩師、細川敏太郎先生、いずれもご健在で、余暇を地方史に捧げていられる。むしろ楽しんでいる姿とも見える。行成先生の「さんばいと七夕」(満濃文芸)は「さんばい」は「足洗い」といって田植えの終わった夕べ、神に酒、神セン(饌)としてすしまたはあずきめしなどを供え、酒宴を催し、タコのキウリもみ、焼きガマス、ワカメの酢のもの、湯だめうどんのことなどを述べ、植え始めの「さいけ」と植え終わりの「さんばい」のことばの異動を中、四国、九州と奥州、関東、北陸、中国、近畿とを簡明に比較して西讃では、だいぶこの田植えの慣習も衰微していることを書かれている。(以下略)

 金四郎さんの小学校時代の恩師の行成先生が書かれた『さんばいと七夕』という本に、田植えの終わった夕べの宴に出るものとして「酒、タコのキウリもみ、焼きガマス、ワカメの酢のもの、湯だめうどん」が並んで述べられていたようです。これまでの記事や「昭和の証言」には、農作業の後のうどんは「打ち込みうどん」か「ドジョウうどん」の話しか出てきていないのですが、初めて「田植えの終わった夕べに湯だめうどん」という話が出てきました。ちなみに、「昭和の証言」や「讃岐うどんの謎」の「法事とうどん」の中には、「法事の時は湯だめうどん」という話がたくさん出てきます。湯だめうどんはゆでたうどん玉を買ってきて湯で捌き直したらすぐにできて、釜揚げや打ち込みよりずっと簡単ですから、人数の集まる催事には結構重宝されていたのかもしれません。

 ちなみに、「昭和36年」の項で、
・田植え前…「さおり」
・田植え後…「さのぼり(さなぶり)」
という説があることを紹介しましたが、行成先生の本によると、
・田植え始め…「さいけ」
・田植え終わり…「さんばい、足洗い」
とあります。行成先生はこのあたりの言葉の違いを研究されていたようで、金四郎さんも「さいけ」と「さんばい」を何の注釈もなく使っておられます。筆者は行成先生は存じ上げませんが、草薙金四郎翁は生前に取材をさせていただいたり直筆の色紙を頂いたりしてお世話になっておりますので、「さいけ」と「さんばい」は大事に覚えておきます(笑)。

 続いて、「さなぶり」の話題がもう一つ載っていました。

(7月3日)

コラム/一日一言

「折りからの さなぶりの酒 もてなされ(春一)」。
 さなぶり(早苗振)とは田植えの終わった祝いのことで、四国路の農村では普通“さのぼり”と呼んでいる。昔は田の神が植え付けがすんだので山に帰るのを送る祭りだったようだ。今では田植えに従事した人々のための骨休みで、手伝いの連中なども呼んで酒、さかなをふるまい、一日のんびり遊ぶ。県下ではこの日に手打ちうどんを作る農家が多い。
(中略)
「朝の虹 消えてひと雨 半夏生(黙禅)」。
 昨日はちょうど半夏(はんげ)だった。昔から田植えはだいたいこの日までに終わるべきものとされており、半夏が過ぎて植えると減収するので「半夏半作」などと言われてきた。「半夏のハゲ上がり」というのは、この日、農家で作るだんごのアンコがはげ上がっているところから来た言葉という古老もあれば、またこの頃に梅雨が明けるので「晴れ上がり」の意味だという人もある。しかし今年は長梅雨で、今月半ば過ぎまで続くというから、うっとおしいことだ。「半夏に雨が降ると不作」などという言い伝えは、あてにならぬ迷信に違いない。しかし、半夏雨はその年の大雨の予告だという占いの方は大いにかついで、水防対策が泥ナワ式にならぬよう注意を怠らぬのはいいことだ。
「風鈴の 夜陰に鳴りて 半夏かな(蛇笏)」

 この時期のコラムには、「さなぶり」と「半夏」の言葉が盛んに出てきます(「さいけ」と「さんばい」は全く出て来ませんが…)。すると、讃岐の農作業とうどんの関係としては、今日言われる「半夏にうどん」ではなく、「“さなぶり”にうどん」と言った方が実情に沿っているかもしれませんが、どうでしょう。「さなぶりうどん」、どこかで復活させませんか(笑)。

大量の外国産輸入小麦の県内行き先は「パン」か

 ではここから「小麦」の話題を。まずは、外国産小麦の輸入情報です。

(2月23日)

来月、今年初の入港 坂出 カナダ産の小麦を積んで

 坂出港輸入食糧誘致協議会では外国の食糧輸入増加に力を入れていたが、今年最初の外麦船が3月6日入港することになった。この第一船は日東商船の洋和丸(1万トン級)で、カナダ産の小麦1万465トンをバンクーバーから積んでくる。坂出港への外国食糧の輸入は32年に12万トンという記録を作っているが、その後農林省の大豆輸入制限などがあって減る一方だったが、昨年は入港船4隻で5万4000トン入っている。最近、パン食の奨励で小麦の消費量もだんだん増加しており、日清製粉坂出工場の施設能力も増強され、倉庫も充実したので、今年は農林省へも陳情し、年間8万トン(6隻)の外麦輸入の見通しがついているという。

(3月10日)

カナダから今年初の外麦 坂出港へ入港

 坂出港へ今年初めて外麦を積んだ貿易船が入港、港頭地帯はこの荷役で活気を呈している。この外麦第一船は日東商船の陽和丸(7642トン)で、さる1月17日カナダのバンクーバー港から小麦1万465トンを積んで7日坂出港へ入港、8日から荷役が行われている。本船からハシケで港頭5カ所に陸揚げ、直ちに袋詰めした上、東洋物産、臨港、県経済連、東洋埠頭、豊年石油、日清製粉など10倉庫に入れられるが、荷役は約1週間かかる見込み。坂出輸入食糧誘致協議会では昨年あたりからパン食の普及で小麦の需要が急激に増えているので、今年は昨年より2、3万トン多い8万トン程度の輸入を計画している。

(8月26日)

今年初のカナダ小麦到着 坂出港

 坂出港へ今年初めてカナダ小麦1万495トンを積んだ陽和丸が23日午後入港、24日から荷役を始めた。坂出港へは今年になってからオーストラリアからすでに3船が入港しており、輸入小麦は3万3000トンに達している。今度の小麦は四国四県へ配分されるが、坂出港はその荷役で活気を呈している。

 2月と3月の記事は同じ船の入港記事ですが、船名が2月の記事で「洋和丸」と書かれているのに3月の記事では「陽和丸」になっているのはご愛敬(笑)。ちなみに、8月の記事は「陽和丸」なので、2対1で「陽和丸」を正解としましょう(笑)。

 しかし、謎が一つ解けました。「昭和36年」の項で「香川のうどん用小麦粉の消費量は県産小麦の生産量でほぼ賄える。とすると、県産小麦の生産量を超えるほどの大量の輸入外国産小麦は、何に使われているのか?」という疑問が出てきましたが、どうもこの記事を見ると、「パン」ですね。そう言えば、当時から小学校の給食は圧倒的にパンだったから、毎日毎日うどんと同量以上のパンが消費されていたのかもしれません。

依然として続く「裸麦から小麦への転換」

 さて、そうした中、香川の小麦は「省力栽培パイロット地区」の活動が続けられ、「裸麦から小麦へ転換」の流れが依然として進められています。

(3月31日)

小麦省力栽培パイロット実績発表会開く 17、18の両日国分寺町で

 香川県は35年度から麦作改善事業を推進しているが、来月17、18日の両日、国分寺町の県農村青年研修館で初の小麦省力栽培のパイロット実績発表会を開く。県下の35、36年度のパイロット部落代表36人はじめ63人が出席、第1日は両年度のパイロット地区の内容、事業報告、問題点などが発表され、第2日は貸し切りバスで36年度のパイロット地区を視察、37年度の指針とする。

(3月4日)

“奨励金を早く”と要望 全農香川県連代表 ハダカ麦転換で県へ

 全農香川県連会長、国方好市氏ら5人の代表は3日午前、大野県副知事を訪ね、ハダカ麦の転換奨励金を早く渡すよう要望した。

 昨年政府はハダカ麦法案を国会に提出、転換奨励金30億円を組んだ。ハダカ麦の転換に10アール当たり2000円の奨励金を出そうというのだが、法案が流れ、そのため30億円が宙に浮き、昨年県下で700ヘクタールがハダカ麦から小麦、ナタネ、ビートに作付け転換したものの、奨励金の方はさっぱり。これでは県の施策も信用されず、また農家の人たちも困るので「早く奨励金が出るようにしてもらいたい」と副知事に訴えた。

 これに対し大野副知事は「これは全国的な問題だが、農林省と話し合って善処するよう努力する」と答えた。このあと一行は農林省香川食糧事務所、県経済連を訪ねて同様な申し入れをした。

 裸麦から小麦をはじめとする他の作物への転作には「奨励金」が出るという話になっていたらしく、その法案が一旦流れたということで、農業団体から行政に対して「早く奨励金を出せ」という要望が出ています。補助金(税金)の動向で事業が進んだり止まったりするのは、ある意味、農業は「民間ビジネス」と言うより「公共事業」に近い要素を持った業界だと言えなくもありませんが(笑)、いずれにしろ、あの手この手で裸麦から小麦への転換が奨励されていました。ところが、そこへ文字通り“水を差す”ような天災が!

長雨で大麦、小麦が大被害!

 冒頭で触れた通り、6月3日から15日まで(別記事に「6月1日から」という記述もありました)2週間にわたって、香川は記録的な長雨に見舞われました。その結果、香川の麦作は甚大な被害を受けたようです。長雨直後の6月16日からの新聞記事を拾ってみましょう。

(6月17日)

小麦は80%越す 丸亀市農業委員会 麦の降雨被害を調査

 丸亀市農業委員会では16日午前9時から麦の降雨被害を調べるため堀家会長ら委員が市内の各農協や現場を訪れ、実情を視察した。このあと善通寺市の農林省香川統計調査事務所仲多度第一出張所など関係機関を訪問、適正な被害調査などを陳情して回った。

 郡家、飯野、垂水地区などでの現地調査の結果、同市の麦の耕作面積1554.3ヘクタールに対して浸水や腐食、発芽などによる被害は約51%に当たる795.3ヘクタールに達することが明らかになった。特に小麦の被害は大きく、81%、714.6ヘクタールに上っている。

 このため、同委員会では調査後、善通寺の農林省出先機関で等外麦の政府買い上げや検査等級の緩和などを訴え、善処を要望した。この他、農業所得などの関係で税務署、国税局などへも実情を訴えることになっている。予想された以上に減収が見込まれる原因について、同委員会では気温低下による熟期の遅れや省力栽培法の普及に伴う作付け面積の急増、例年より4、5日早かった入梅などをあげているが、麦以外でも同市飯野町などで開花期のブドウ(ネオマスカット)に大きな影響を与えており問題となっている。

 丸亀市では、市内の麦の耕作面積の約51%が「浸水、腐食、発芽などの被害(つまり収穫不能)」を受けたとのこと。そのうち小麦は「81%が被害に遭った」とありますから、ほぼ壊滅状態になったと思われます。加えて、7月末のレポートでは「丸亀、善通寺、仲多度の3地区において、5323ヘクタールの麦作のうち45%が発芽や腐敗、変色、変質するなどの被害を受けている。被害を受けた約半数が5~6割の減収を余儀なくされ、収穫皆無のところもあるといわれ、損害額は約4億円にのぼるとみられている」という報告も載っていました。

 この大被害を受けて、県はさっそく国等への救済要請に動き始めています。

(6月18日)

中央へ協力な陳情 等外麦の買い上げなどで 県議会全員協議会

 香川県議会は17日午前10時半から県議会第一委員会室で緊急全員協議会を開いて、雨によって県下全域に起こっている麦の被害対策について協議した。この結果、被害総額は小麦を主に、ハダカ麦を合わせると12億円を超え、農家にとって深刻な打撃を与えているので、

一、 等外麦の検査規定の設置と早期買い上げ。
一、 実態に応じた実情調査と農業共済金の早期支給。
一、 天災融資法の発動による農家への融資措置。
一、 種子の確保。

などを関係官庁や諸団体へ要望することを決め、(中略)県、県議会、農業団体代表の三者が一本になって中央へ強力に陳情することになった。(以下略)

 続いて同日のコラムに、長雨被害についての各方面の様子が書かれていました。

長雨の農産物被害 収穫に暗い見通し 農業団体、陳情、調査でてんてこ舞い

 雨と霧に包まれた灰色の梅雨空はいったいいつまで続くのだろうか。6月に入れば湿っぽい“梅雨”の訪れを一応覚悟していても、ここ2週間、カラッとした晴れ間に一向にお目にかからない。駆け足でやって来た今年の梅雨はすさまじい勢いで降り続け、雨量はとうとう15日現在で200ミリ近くにも達するというありさま。

 天を仰いで恨んでみたところで、所詮仕方がない。「うっとうしいですね……」の紋切り型あいさつはまだしも、「どうせ腐った麦だ、すき込んで田植えの肥料にでもしてしまえ」、そんな愚痴の一つも出ようというもの。事実、大川郡ではこんなことで親子げんかまで起きたところがあるそうだ。「もったいない」と落ち穂拾いまでしていたおやじと若い世代のギャップがけんかを引き起こしたのかもしれない。

 とにかく「豊作」とタイコ判を押されていた県下の麦作は予想以上の減収。これをゼニめで勘定してみるとざっと10億円にもなろうとあって、県議会でも17日、対策を練るという。農家にとってはゼニにならない麦だと言っていても、平地部の現状はまだまだ米に次ぐ大きなウエートを持っている。

 高松市東部郊外の低地水田では15日朝、やっと降りやんだ雨の合間をみて、一面に水浸しになって2、3センチも発芽した黒ずんだ小麦を水面から熊手で引き寄せている農夫の姿がここかしこに見られた。水不足で例年悩む讃岐路では珍しいシーンだった。ここしばらくは減収と品質悪化の対策や等外麦の買い上げ要請、被害調査、農災法に基づく農業共済の問題など、当面の課題が大きく浮かび上がってこよう。

 品質は70トン以上の等外麦が出るだろうと予想され、かろうじて合格したとしても下級が多いという見方が強い。16日の検査標準品下見会でも予想どおり、県農業会議など生産者代表側から大きくテコ入れされた。今後、農林省香川統調の被害調査の結果も最大の関心事になろう。この大きな減収に対する農災法の適用に問題があるからだ。県農業会議の上枝農政部会長は、これらの陳情のため急ぎ上京したが、よいみやげ話を期待しているのは農家ばかりでもあるまい。

 このぶんだとキウリ、ナスなど野菜にも病害虫の発生が気遣われているが、ただ一つ、葉たばこだけはにわかに気温の上昇がない限り昨年以上の出来栄え(県たばこ耕作連調べ)だろうと、ここばかりは明るい表情だ。一方、果物は出荷期近いモモがまずまず。だが、カキでは生理落果(水分過剰)、ミカン類でも春芽の伸び過ぎで減収がそれぞれ心配になっている。

 目先を変えてみると、国鉄でも“泣きどころ”といわれる土讃線の崖崩れ、それに宇高連絡船も濃霧で立ち往生と、あれやこれやでダイヤも一時はズタズタ。電話回路の故障が起こったと思えば、空のダイヤも止まった。そして県下の連絡網も各地で被害が続出、あちこちで定期バスがストップを食らい、「ままにならぬはお天とうさま」と讃岐っ子は恨めしそうな表情。長雨で叩かれた路面にはあっちこっちに大きな窪みができ、郊外バスに乗ったお客さんは「馬力車よりましだ」と苛立つ心を抑えながら半ばあきらめ気味。県の土木出張所や市道路課も「なんとか早く補修を」と考えているようだが、このお天気では…とお手上げの格好。

 さて、空もようを高松地方気象台に打診してみると、「ひと休みした雨は18日ごろからまた降りそう」といった暗い予報。「明暗」は自然が織りなす“アヤ”といえようが、明るいといえば先ほどの葉たばこの他は高松市の水道くらいだろう。例年ならそろそろ水不足が伝えられるころだ。それだけにこの雨は文字通り“干天の慈雨”。夏場の心配はご無用と関係者のエビス顔がちらつく。しかし、青空に浮かぶ入道雲を期待するのはお百姓さんばかりでもあるまい。

 さらに7月にもう一本、長雨被害の顛末レポートが載っていました。

(7月7日)

大雨が描く明暗さまざま 水道はホクホク 野菜、また高値気配

 香川県下は降り続いた集中豪雨のため稲の活着が遅れ、野菜、果実類もさんざんたたきつけられて不作へ輪をかけている。一方、商店街も7日から高松市商店会連合会は夏の商戦に追い打ちをかける中元大売り出しをやろうというのに、暗雲低迷の梅雨空を眺めて客足を心配顔。こうした裏目に引き換え上水道だけはさすがに好転の一途をたどり、6日には水神まつりを行なうなどホクホク。そこで、雨が描く明暗両面を打診してみた。

<高松市上水道>
 この集中豪雨は夏場の渇水ピンチを完全に解消。どこの貯水池も満水してどんなに照ろうが給水にはまず心配がなさそうだと、6日は御殿貯水池、浅野、楠上浄水場で恒例の水神まつりを行ない、竜神さんへ酒を供えて感謝した。ここばかりは雨さまさまといったところ。

<農作物>
 田植え後さっぱり日の目を見ないこの空模様に、稲の生育がまず心配されている。6月中は麦がやられ、最近の豪雨で野菜、果実が叩かれてさっぱり。讃岐スイカの主産地大川郡では212ヘクタール作付けされているが、雨の影響で半作見込み。さらにタンソ病などの発生も見られ、危機に見舞われている。収量が少ないところへ品質も全般に悪いから、相場もさえない。「麦の不作を取り戻そうとした思惑が外れた」と農家もこぼしている。キウリ、トマト、ナスなど野菜も水を被って病虫害が続発。かなり出回ってお台所を喜ばせていたのも束の間、各市場とも出荷の品枯れのため全般的に強気配。果実はモモが1割減。まだこれからというブドウなどは甲州、マスカットが半作以下だと悲鳴をあげているが、カキ、ミカンも雨がたたった生理落果がひどく、2割減だろうと前途は暗い。

 わずかに明るいといえば、葉たばことナンキン作りぐらい。葉たばこは収穫期に入っているが、「量目は前年以上の240キロ(10アール)は間違いあるまい(専売公社)」と太鼓判を押している。また、ナンキンは県内200ヘクタールにわたっているが、もう収穫を終え、10アールあたり少なくて10万円、多いところは20万円を超す水揚げになっているという。「雨があればナンキンはよく売れる」というジンクスらしいが、県外各地から引っ張りダコ。ついに空前の高値を呼んだ。“かど番”に立っていたスイカは「来年は大部分ナンキンに転向するのではないか」ともっぱら話題を呼んでいる。

 長雨がもたらす被害はたいてい農作物と交通機関に集中するものですが、とにかく香川の小麦は大打撃を受けたようです。しかし、実際の小麦収穫量をデータで見てみると、どうもこの年に大幅減産とはなっていないようです。まず、長雨被害直後の6月21日に農林省が発表した昭和37年の香川の小麦の予測収穫量の記事を見てみましょう。

(6月22日)

香川は11万トン 麦作の予想収穫量 全国で前年より40万トン減収へ

 農林省は21日、6月1日現在の37年産麦とナタネの予想収穫量を発表した。それによると、香川県の麦作予想収穫量は11万477トン。全国的には麦、ナタネとも作柄は良好。麦は平年作より1割以上の豊作見込み。ただし、作付け転換で作付け面積が前年に比べ四麦(小麦、六条大麦、二条大麦、ハダカ麦)計で6%減、ナタネは10%減となっているため、予想収穫量は四麦が363万2000トンで、前年に比べ12万5000トン(3%)減、ナタネは27万1000トンで3000トン(1%)減となっている。農林省では6月1日からの長雨の被害は21日までの集計で四麦で約28万3000トン、ナタネは約2万3000トンと見込んでいるので、これが全量減収となって現れないにしても、予想収穫量は前年に比べ四麦で40万トン近い減収、ナタネで2万トン程度の減収になるとみている。

<香川県の37年麦作予想収穫量>
   作付面積  実収量
小麦 17,960ha  59,500t
裸麦 14,100ha  50,900t

 続いて、収穫期を終えた8月29日に農林省香川統計調査事務所が発表した香川の小麦の推定実収量を報じた記事。

(8月30日)

小麦減収、裸麦豊作 県下の産麦実収まとまる

 農林省香川統計調査事務所は、県下本年産麦実収高を29日発表した。推定実収によると、小麦(作付け1万7900ヘクタール)は10アール平年対比95%、4万9100トンを示し、前年より4500トン減っている。一方、裸麦(同1万4200ヘクタール)は同平年対比128%という豊作を示し、実収5万2100トンに達した。

 大麦が昨年より面積において裸麦より900ヘクタールも増反しているのに実収の振わなかったのは、収穫期の長雨が大きくたたったもの。なお、被害関係では風水害、病害などで小麦が被害面積1万7742ヘクタール、被害量2万2462トン。また、裸麦は1万3485ヘクタールにわたって被害、8108トンの被害量を示した。推定実収結果は別表のとおり。

<香川県の37年推定実収>
   作付面積  実収量
小麦 17,900ha  49,100t
裸麦 14,200ha  52,100t

 6月1日現在の県産小麦予想収穫量は「5万9500トン」で、長雨被害の影響がほぼ判明した8月の推定実収は「4万9100トン」。記事によると「前年から4500トンほど減産になる」という推定ですが、これは比率で言えば8~9%の減産に過ぎず、これまでの記事に出てきた「81%が被害に遭った」「被害を受けた約半数が5~6割の減収を余儀なくされ、収穫皆無のところもある」という話とはちょっとイメージの違うデータになっています。長雨被害が実際はそれほど大きくなかったのか、あるいは被害を受けて品質が落ちた小麦も行政が買い上げて「収穫量」にカウントされたのか、そのあたりはよくわかりません。

四国の小麦は香川、大麦は愛媛、生産性は香川が一番

 ちなみに、6月22日の記事中に、四国4県の小麦と大麦の作付面積と予想収穫量(昭和37年産・6月1日時点での予想)が載っていました。

【小麦】作付面積   予想収穫量
 香川 17,960ha 59,500t
 徳島 10,000ha  29,400t
 愛媛 7,800ha 21,100t
 高知 2,030ha 3,910t

【裸麦】作付面積   予想収穫量
 愛媛 24,600ha  81,300t
 香川 14,100ha  50,900t
 徳島 12,700ha  36,100t
 高知  6,010ha  14,200t

 これを見ると、四国の小麦は「香川県」、大麦は「愛媛県」が大産地だったようです。加えて、この数字をベースに「1haあたりの収穫量」を計算してみると、こうなりました。

【小麦】1haあたりの収穫量
 香川 3.31t
 徳島 2.94t
 愛媛 2.70t
 高知 1.93t

【裸麦】1haあたりの収穫量
 香川 3.61t
 愛媛 3.30t
 徳島 2.84t
 高知 2.36t

 技術力の差なのか、土地や気候の適性の違いなのか、小麦も大麦も「生産性」では香川がナンバーワンです。

麦の倉庫不足は相変わらず

 続いて、これも前年からの懸念事項だった「売れない麦」の行き場がなくなって、保管倉庫不足がますます深刻になってきているようです。

(8月21日)

麦の集荷で倉庫満腹 新米期控え悲鳴 県外搬出だけが頼み

 香川県下の農業倉庫は古麦を抱え、また予想外の新麦政府買上げが増え、どこの倉庫も満腹。このため、あと2カ月後に控えた新米の倉入れは在庫麦の県外搬出などうまく調製がつなかければお手上げという状態で、どうしたものかと関係者は頭をひねっている。

 農林省香川食糧事務所の調べによると、今、県内約500棟、12万トン収容の農協倉庫と業者倉庫を備えている。ところが現況は古米1万5000トン、古麦2万トン、その上、予想外に伸びた買い上げ新麦が8万4000トンもぎっしり詰まって、これ以上抱えきれないという飽和状態。米は新米穀年度の11月まで順次配給に回すが、処置に困っているのは今年の麦。裸麦はともかく、小麦となれば精麦業界からそっぽを向かれるといった品質不良のため、大部分が飼料用に払い下げが計画されている。

 このため食糧庁は去る18日、中四国近畿地区の食糧事務所業務部長らを大阪へ集めて、農業倉庫保全と今後の倉庫操作を打ち合わせた。会議では「今さら急に倉庫新設といっても間に合いそうになく、そうかといってこのままだと香川県の場合、新米6万7000トンが続々入荷する11月頃には倉庫不足でお手上げという事態も起こりかねない。結局、麦を県外回送することにして、とりあえず9月に約8000トンの裸麦を北九州方面へ送り出す。いずれにしても本庁指令なしでは動かず、このあたりの連係が特に必要だ」と話している。なお、場合によっては“トラの子”の消費米であっても4000トン程度を徳島方面へ回す苦肉の策も計画されている。

 香川県が使っている倉庫が、農協倉庫と業者倉庫を合わせて県内に約500棟あって、総収容量は12万トン。で、そこに入っている米と麦が、
・古米…1万5000トン
・古麦…2万トン
・新麦…8万4000トン
で、合計11万9000トン。そこへ、11月頃に新米が6万7000トンやって来るという大ピンチです。消費減退で売れなくなった麦や、天候不順で品質が落ちて売れなくなった麦は、民間ビジネスなら生産側が身銭を切って処理するのですが、当時の日本の農業制度はそれらを「政府が買い上げる」という救済措置をとっているわけですから、こうなることは当然予測されます。ちなみに、新米がやって来る11月以降どうなったのかについては、残念ながらこの年の新聞には出てきませんでした。

県が「観光資源開発マスタープラン」を策定、議会は「観光県」を宣言

 では、この年も観光物産関連の記事をいくつか拾ってみました。まずは、豊浜町の小学生が豊浜町の名物・特産を紹介しています。

(9月23日)

郷土の産業と町づくり・少年記者ニュース/特産物にそうめんと敷島ふ 豊浜町

 私たちの町、豊浜には、そうめん、うどん、敷島ふ、歯ぶらし、木工(ぼん)などの工場があります。そうめんは明治35年頃から製造が始められ、次第に発展して、現在は1カ月に約2000箱作られています。よく売れる月は6、7、8月で、販路は四国、中国、九州の各地方です。そうめんは普通18キロ入りの箱ですが、9キロ入りの小箱も出ています。この製麺場の他に、姫浜に7軒、和田浜に1軒、大野原に3軒あります。そうめんに色をつけたひや麦や、ラーメンなども製造しています。そうめんは、私たちの町、豊浜の第一の産業です。

 私たちの町には、もう一つの特産物があります。それは、敷島ふです。小麦粉を原料として、毎日盛んに作られています。そして、北陸、九州、北海道など、全国各地へ送り出されています。この敷島ふにも時期があり、そうめんと反対に秋から冬にかけて、副食用に全国各地へ積み出されています。このように、私たちの町では夏から秋にかけて売り出されるものなど、いろいろな製品がつくられています。(三豊郡豊浜町豊浜東小学校六年・○○○○)

 明らかに大人の手が入ったと思われる文章ですが(笑)、ということは内容も大人がチェックしてるはずなので、ある程度信用できそうです。書き出しに「豊浜にはそうめん、うどん…の工場があります」とあるように、当時の豊浜では「うどん作り」も地元でそれなりに認知されていたようですが、詳しく触れられているのは「そうめん」と「敷島ふ(麩)」。そうめんは「豊浜第一の産業」で、そうめん製造の休みの季節には敷島麩が盛んに作られていたようです。

 続いて、恒例の物産展のニュース。

(10月8日)

東京トピックス/香川から150点出品 人気呼ぶ「四国の観光と物産展」

 秋の物産展のシーズンを迎え、5日から「四国の観光と物産展」が神奈川県横須賀市のさいか屋デパートで開かれている。会場には四国4県の郷土色豊かな物産数千点が展示即売され、お国自慢の徳島の阿波踊りや高知の太刀踊りなどのアトラクションや、観光地写真展、観光映画による観光ルートの案内なども行なわれ、人気を盛り上げている。

 香川から出品された物産は約150点(65万円)で、食料品、おもちゃ、漆器など県物産すべてを網羅。食料品では、瀬戸内海で獲れる魚を原料とした「てんぷら類」は主婦に引っ張りダコ。その他、エビ、フグの加工品、オリーブ製品、民芸品の“張り子”のトラ、天狗面、アジロ盆に人気が集まった。県東京観光斡旋部の平井さんは「横須賀市は関東第三の都市で、観光誘致の拠点の一つです。この物産展では、本県としては観光宣伝に主力をおき、物産では35万円程度の売り上げを予想しています」と語っていた。

 また、20日から東京タワーで「四国の観光とみやげ品展」が開かれるが、東京タワーでの特産展は初めての試み。「東京タワーは東京の人だけでなく全国の旅行者が集まるところなので、四国の観光宣伝には打ってつけ」と各県係員は準備に大わらわ。それだけに今までの物産展と違って「みやげ品」本位のものを豊富に取りそろえ、観光ルートの案内や観光地写真展、観光パンフレットの配布なども行なう。

 1月に栃木県宇都宮市のデパートで「四国の観光と物産展」が開催され(冒頭の記事参照)、10月には横須賀のデパートで「四国の観光と物産展」、さらに東京タワーで「四国の観光とみやげ品展」が開催されました。新聞で見る限り、この手のイベントが当時の香川県の観光行政の目玉イベントだったようですね。ちなみに、ここでは「手打ちうどん実演」には触れられていませんが、やらなかったのかもしれませんし、やったけど記事にならなかっただけなのかもしれません。

 続いてこの年、県が「香川観光総合開発マスタープラン」を策定しました。ちょっと長いので、小分けにして見ていきましょう。

(10月9日)

「香川観光資源開発」マスタープランなる 野外広告規制など 来年度から実施へ

 観光資源開発のため、先に香川県が環境開発センター(浅田孝所長)に予算100万円で依頼した香川観光総合開発に関するマスタープランが半年ぶりに完成、このほど県に提出された。近く開かれる県観光事業促進特別委員会にかけ、議会の承認を得てさっそく来年度からこの主計画によって観光資源開発を進める。五色台開発、県観光課の独立なども話題にのぼっている昨今、この報告書の持つ意義は非常に大きい。

 100万円をかけて作られたプランだそうです。昭和37年度の国家予算が約3兆円で、令和元年の国家予算が100兆円ぐらいですから、予算規模が今の30分の1ぐらいだとすると、今に換算すると3000万円以上の予算に相当する一大プランです。

8地区に分類 開発方向を指摘

 この報告書によると、観光の見地からみた香川県は、地理的には多島的内海沿岸公園としての特徴を持ちながら、阪神と九州を結ぶ通過観光地帯にとどまり、四国4県の国鉄循環線など未完成のため、他の観光地と関連性が少ない。また、阪神間との連絡の時間短縮にフェリーボート、水中翼船などから最終的には瀬戸大橋架設に至る努力が必要である。

 次に、気候的条件として、夏は夕凪など高温多湿のため、従来は春秋型の観光地だった。これまで各観光地は宿泊施設が悪く、特に近代的ホテルは皆無に等しく、四国遍路とつながる伝統的な名所古跡と近代との調和がとれていない。また、温泉に乏しく、保養施設としてはわずかに塩江と近年五郷渓温泉が脚光を浴びている程度。

 「瀬戸大橋」の話が出てきました。紫雲丸事故が起こったのが昭和30年で、そこから瀬戸大橋架橋の気運が加速し、昭和33年に香川県が瀬戸大橋架橋案を決定して国への陳情を開始。その流れで、この年の報告書に「瀬戸大橋架設に至る努力が必要である」という県のコメントが出ています。

 加えて報告書は、香川の観光地の宿泊施設の貧弱さをかなり酷評しています。ちなみに、温泉で名前が挙がっていたのは塩江温泉と大野原の五郷渓温泉の2つ。五郷渓温泉は昭和36年に開業した大きなヘルスセンターみたいな施設で、昭和40年代には猪料理の「狩り場焼き」を目玉にして地元で盛んにテレビCMもやっていたのですが、昭和50年代に入るとすっかり衰退してしまい、昭和55年(1980)に廃業しました。

このような状況から今後は、

①美観を損なう広告物などの強力規制措置
②民間機関、県民との協議体制
③有力観光資源の島しょ部、辺地の飲料水、電力確保と船便の抜本的改善
④工芸物産養殖漁業の技術などを中心とした観光地化
⑤飛行場、ヘリポートなど空からの観光開発
⑥香川用水、都市圏開発、瀬戸大橋架橋計画などの総合実施
⑦観光開発宣伝の新体制確立

などを図れ、と結んでいる。また、同報告は県下の観光地と観光資源を次の8地区に分け、それぞれ特徴を持った観光地としての整備開発を勧めている。

①高松地区
▽地域=屋島、八栗、雌雄島、栗林、紫雲山その他
▽産業観光資源=讃岐漆器、ちり紙、桐下駄、養魚場、塩田
▽宿泊施設=1日収容量3801人
▽今後の開発方向=既成観光地の整備

②小豆島地区
▽地域=小豆島、豊島、小豊島、直島など
▽産業観光資源=オリーブ、花、手打ちそうめん、石材、魚
▽宿泊施設=1日収容量1612人
▽今後の開発方向=島としての魅力と地理的優位を生かす

③東讃地区
▽地域=大内、白鳥、引田を中心とする
▽産業観光資源=養魚池、ボタン、手袋、農村工芸
▽宿泊施設=1日収容量280人
▽今後の開発方向=農村工業地としての産業観光

④塩江地区
▽地域=仏生山、塩江、亀鶴公園
▽産業観光資源=茶、農村工芸
▽宿泊施設=1日収容量80人
▽今後の開発方向=伝統の保存、農村工芸と農村保養地

⑤琴平地区
▽地域=丸亀、善通寺、琴平中心
▽産業観光資源=うちわ、塩田、農村工芸
▽宿泊施設=1日収容量3163人
▽今後の開発方向=民間信仰中心

⑥観音寺地区
▽地域=荘内半島、観音寺、豊浜、五郷渓温泉
▽産業観光資源=ミカン、除虫菊、トウガラシ
▽宿泊施設=1日収容量1170人
▽今後の開発方向=農村園芸、その他は将来開発に待つ

⑦塩飽地区
▽地域=本島中心の塩飽諸島全域
▽産業観光資源=石材産出
▽宿泊施設=1日収容量50人
▽今後の開発方向=工業地の週末保養地

⑧五色台地区
▽地域=五色台、府中ダム、城山中心地区
▽産業観光資源=カキ、ミカン、モモ、塩田
▽宿泊施設=1日収容量0人
▽今後の開発方向=都市圏の中心緑地

 8つに分けられた観光地区の「今後の開発方向」を抜き出すと、

●高松地区……既成観光地の整備
●小豆島地区…島としての魅力と地理的優位を生かす
●東讃地区……農村工業地としての産業観光
●塩江地区……伝統の保存、農村工芸と農村保養地
●琴平地区……民間信仰中心
●観音寺地区…農村園芸、その他は将来開発に待つ
●塩飽地区……工業地の週末保養地
●五色台地区…都市圏の中心緑地

 となっています。「一大プラン」にしては特に目新しい観光開発戦略は見当たらず、いずれの地区もあまり具体性のないスローガンのようなものが並んでいますが、それは今も昔も行政の計画書のお決まりということで(笑)。そして12月には、県議会が「観光県宣言」なるものを決議しましたが…。

(12月21日)

全国初の観光県宣言 工業から観光立県へ

 12月定例香川県議会は今日21日、7日間にわたる会期の幕を閉じるが、閉会に先立って全国初の「観光県宣言」を決議する。観光資源を開発し、道路、交通機関、宿泊施設などを整備拡充して、従来の国内観光から国際観光への脱皮をはかり、最大の県新事業として観光産業を重点的に育成しようという。来春から県観光課の独立設置が実現されるが、観光施策の積極的推進にさらに拍車をかける。全国でも珍しい「観光県宣言」を議決する裏には県の観光政策をよしとせぬ県議会側の意思表明があり、観光課独立を前に、県へ投げた“牽制球”だと見る向きが多い。そして、その言わんとするところは「工業立県」よりも「観光立県」を優先せよということだ。

 地域格差是正の国の施策に沿って、県では高松、坂出、丸亀を中心とする新産業都市建設計画を作成するとともに、これまで臨海工業地帯の用地造成に務めてきた。しかし、土地はできても肝心の工場誘致ははかばかしくなく現在に至っている。新産都計画では476億円の事業費で2600ヘクタールの工業用地を昭和45年度までに造成するが、果たして工場、特に県の言う大企業を誘致できるのか、というのが議会で問題になっている。さらに埋め立て事業には国庫補助が出ないが、「膨大な埋め立て費を長期にわたって県、地元が負担できるのか」と疑問を投げかけている。

 また、「それほどの巨費を海のものとも山のものともつかぬ埋め立てに使うよりは、観光資源開発に重点的に振り向けたらいいじゃないか」という声が強い。香川県は多島的内海海洋公園としての瀬戸内海に面し、琴平、屋島、白峯など名所古跡も多く、伝統工芸にも見るべきものが多い。気候も温暖少雨だ。これらの恵まれた諸条件を生かし、最近盛んなレジャー観光の時流に乗れば、内外合わせて年間500万人の観光客が期待され、一人平均3000円としても150億円が県に落ちる。取らぬタヌキの皮算用とは言うが、これだけの県内産業はちょっと見当たらないという論法だ。もちろん県でも金子知事の重要施策の一つに観光立県があり、主張するところは議会側の言う内容に落ち着くが、この際、議会でハッパをかけておこうというのが「宣言」の狙いのようだ。

 威勢はいいけど、どうも観光政策が微妙に政争の具にされている感もなきにしもあらず(笑)。ちなみに、「臨海を埋め立てても工場誘致が進んでいない」という理由で「工業立県より観光立県を優先せよ」という主張ですが、この3年後の昭和40年に始まった坂出番の州の埋め立て事業は坂出を中心に香川の経済を大きく発展させ、一方、「観光立県」は昭和63年に瀬戸大橋が開通するまで目立った成果を挙げることはありませんでした。

 あと、「栗林公園のビールとおでんが高かった」という県外観光客のお怒りの声が寄せられております(笑)。

(10月19日)

読者の声「こだま」/栗林公園の汚点

 去る7日の日曜日に天下の名園、栗林公園を訪れ、ある飲食店で軽食をとった。ビール(付き出しなし)170円、おでん(卵30円、その他25円)。卵も小さく、その他もお粗末ながら、市価と比べてビールは13%、おでんは50~67%高い。栗林公園の建て物は県から借りていると聞いている。家賃も一般より30%は安いはずです。飲食料金は1年を通じ市価並みで十分採算がとれると思う。観光香川のため、県当局の監視を強化すべきだとあえて苦言を呈します。(岡山・観光客)

 その他、小豆島のそうめんが「18キロ入り5万5000~6000ケースも生産され(1ケース1500~1600円)、県内はもとより阪神や九州にどんどん出荷されている」という記事がありましたが、うどん関連の広告や求人では特に目立ったものはありませんでした。

(昭和38年に続く)

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