さぬきうどんのあの店、あの企業の開業秘話に迫る さぬきうどん 開業ヒストリー

はなや食堂

【はなや食堂(善通寺市)】
善通寺の「食堂型うどん店」の歴史を体現する一軒。「うどん屋のおでん」と「本家丸亀製麺」の謎も明かされる?!

(取材・文:

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  • vol: 4
  • 2016.01.26

第二話

はなや食堂・中編

聞き手・文:田尾和俊
お話:はなや食堂の女将さん(昭和12年生まれ)

<昭和37年〜昭和50年頃>

 さて、丸亀の製麺屋さんで育った女将さんが、昭和37年に善通寺市の「はなや」に来ることになりました。ただし、店に出始めたのはそれから10年も経ってからのこと…

明治時代から続いていた食堂「はなや」に、女将さんが嫁いでくる

ーー では、女将さんが「はなや食堂」に来ることになったあたりのお話を。何があって「はなや」に来ることになったんですか?

インタビュー中、大きく身振り手振りで説明してくれる女将さん。

インタビュー中、大きく身振り手振りで説明してくれる女将さん。

女将
ここに嫁いできたんやがな。昭和37年、私が25歳の時や。嫁いできた時は、私の主人の親がこの店をしよった。その時から「はなや」いう名前やったと思うけど、この店は古いで。明治中期の頃から食堂しよったから、私が来た時にはもう創業70年ぐらい経っとったん違うかな。うどんやばら寿司に、天ぷらもおばあさんが平鍋で揚げて売りよった。あと、魚の焼いたんとかタコを茹でて酢醤油で出したりとか、酒も出しとった。まあ、食堂やわな。近所に牛市があったから、そこから商売人のお客さんがよう食べに来よった。

ーー そこでさっそく働き始めたわけですか。

女将
違う違う。私の主人は「はなや」の息子やったけど、店は親がやってて、私の主人は病院勤めでレントゲン技師をしよったんやがな。そやから私はサラリーマンの奥さんでええと思って結婚して、店に出るわけでもなく、子供ができたら子守や雑用ばっかりしよったんよ。それで10年ぐらい。そしたら昭和48年に主人の母親が急に亡くなってな。それで舅に「もうぼつぼつ商売するか?」言われて、「私や何ちゃようせんで」言うたんやけど「何とかなるわ」言われて、それで昭和48年からこの店に出るようになったんや。

ーー 結婚した時の思惑が、10年で崩れた(笑)。

女将
そうやがな(笑)。もううどん屋から離れられると思って嫁いできたら、10年でまたうどん屋せないかんようになった(笑)。けど、最初のうちは天ぷら一つにしたって自分の思うようにならんのよ。それまで何もしとらんのやから、うまいことできるはずがないわな。それでも私はいい加減なのは出せん性分やったから、作っては捨て、作っては捨てて、舅が目をそらしとる間に天ぷらな何ぼ放ったかわからんわ(笑)。でもそのうちコツを覚えてきて、だんだん自分の満足いくのが出せるようになって来た。

「うどん屋のおでん」は「食堂のおでん」がルーツか?!

ーー 今の「はなや食堂」名物の黄色いコロモの天ぷらは、最初からですか?

衣が真っ黄色の天ぷら。右側が名物の手長ダコです。

衣が真っ黄色の天ぷら。右側が名物の手長ダコです。

女将
最初からやね。昔はみんな、こんな黄色いコロモの天ぷらをしよったやろ。里(丸亀)におった頃は、祭りの時とかになったら赤とか緑のコロモの天ぷらも親が作りよった。緑はゴボウで、レンコンは黄色だった。けど、こっち(善通寺)に来てからは黄色だけやな。サツマイモもレンコンもゴボウも、ここ(はなや食堂)に来てからは全部黄色のコロモ。八百屋さんがレンコンを丸ごと黄色いコロモを付けて揚げてな、それを切って売ったりしよったわ。周りのフチだけに黄色いコロモが付いたスライスのレンコンの天ぷらや。ちくわ天は、昔はしよらなんだな。

ーー ちくわ天は意外と新しいんですね。おでんは出してましたか?

女将
私が「はなや」に来た時は、おでんは置いてなかった。あれは私が始めたんや。

ーー どういう理由で置き始めたんですか?

女将
理由は別にないわ。「おでんしよか」言うて始めただけやのに(笑)。私が小学校の時に、小川の文房具屋の筋に風呂屋があって、歯医者さんがあって、その横に私の同級生がおった小さい食堂があって、その食堂におでんが売っとったのは覚えとる。食べたことがあるから。そやから、今、あちこちのうどん屋におでんを置いてあるのは、昔の食堂の名残かも知れんな。

私が店でおでんを始めたのも、特に「あの食堂にあったのを真似して」とかいうのではなくて、食堂におでんを置くいうのはまあ普通にあるもんやと思とったから違うかな。初めは鋳物の平鍋で、いろいろ串に刺してしよったわ。うちのおでん、本に載っとるで。そこに『おでん物語』いう本があるやろ。香川県でうちだけしか載ってない。何やら昼過ぎに取材やいうて来てな。「もうあんまり残ってないで」言うたら、残っとったこんにゃくとすじ肉と大根の写真を撮って帰りよった(笑)。『週刊ポスト』にも載ったことがあるで。

ーー 全然知りませんでした。今度、おでんを食べに来ます(笑)。

後編に続きます

はなや食堂・外観

善通寺市

はなや食堂

はなやしょくどう

〒765-0031

善通寺市金蔵寺町838-2

開業日 明治中期頃

営業中

現在の形態 一般店

(2015年7月現在)

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