第二話
植田製麺所・後編
高松市栗林町で、平成28年7月まで営業していた「植田製麺所」。栗林小学校正門前から伸びる細い路地の奥という人目を避けるような立地だが、かつて、ここのうどんは今では想像できないほど多くの人たちの昼食を一手に引き受けていた。戦後から平成まで、ご夫婦2人に「うどんと共に歩んだ半生」を語っていただいた。
聞き手・文:篠原楠雄
お話:ご主人・植田信義さん(昭和7年高松市栗林町生まれ)
奥さん・植田美代子さん(昭和12年高松市三谷町生まれ)
<昭和40年代〜昭和50年代・続き>
栗林には製麺所がたくさんあった
- ご主人
- うどん屋(製麺所)はここらによーけあったわ。あのう「谷本」さんいうて…。
- 奥さん
- ここを出たら本庁通り(藤塚商店街)あろうがい。ほんで南ずーっと行たら、信号が1つあって「松岡」いう大っけな酒屋があるんや。そこの向こ手の通り。近くに「ツジ」とかなんという風呂屋があったわ。
- ご主人
- 「谷本」は古いけん。うちより古い。あしこへ行たら、ここらのことは全部話してくれると思うわ。行てみまい。
- 奥さん
- けど早うやめたの。今カラオケ喫茶しよるわ。飯喰わしたりなんかしよん。
- ご主人
- それと「谷本」から1つ向こう行たら「上原」がある。あすこも古いけん。うちとどっちが古いかいの。
- 奥さん
- 前は卸ししよったけど、今しよんかいの? お父さんの代は道一本こっちでしよったけど、ええとこ行たわ(現在は栗林公園前の中央通り沿いに移転)。観光客に分かりやすいわの。
うどん屋は街にもよーけあったんで。少年院のなんかあの辺にも、仏生山にもあった。あそこの「田中屋」さんは、映画館が近いけんおうどん屋しよったんちゃうん。そうそう、仏生山にも映画館あったで。私ら三谷から歩いて行っきょった。法然寺から商店街ずーっと南行ったら「アオイ堂」いうお菓子屋があるやろ。あれからちょっと行たら「ヨシノヅ」いう呉服屋やあっての。その側。今、映画館の跡は何になっとるか分からん。
けど、よーけあったうどん屋ももうほとんど閉めてしもた。跡取りがおらんよーになったけんの。みんな一緒なんや。自分たちの仕事がえらいもんじゃけん、頑張って学校(がっこ)やるやろ。ええとこへ就職さそうと思て。ほだ就職してくれたんはえんやけど、後は継がんわもちろん。うどん屋もせん、酒屋もせん、八百屋もせんの。坊主の同級生のとこ見よったらよー分からい。みな一緒じゃ。
組合の品評会にうどんを出すのが面倒くさかった
- 奥さん
- 組合(本場さぬきうどん共同組合)あるやん。その株を「買え買え」言われての。なんぼか買うとったけど、利息もなんちゃ付かんいうて、もう早う買い戻してもろたんの。
- ご主人
- 金にならんが。
- 奥さん
- 今持っとらんのに、なるかならんか知らんわ(笑)。今、組合いうたら、どこが持っとるんかの。しまいにどっかが買い占めたんで。
- ご主人
- そやけん、組合の品評会にの、ちょいちょいしよったんや。
- 奥さん
- 3べんぐらい出したかの。2、3年続けて賞もろたん。賞状との。
- ご主人
- 出すたんびに賞くれた。県知事賞やくれるん。「お前うまいんやのう」言うてみんなに言われよった。
- 奥さん
- 賞は新聞社の裏にある「松下」もちょいちょい入んりょったん違うん。「日の出(日の出製麺所・坂出市)」とかも。
- ご主人
- 方々から来よったからの。
- 奥さん
- けど県知事賞とか、あんなんに入ったら困るんや。うとましいんや。新聞とかなんとか取材に来て。それにあそこ(うどんの品評会)出すん面倒くさいんや。茹で加減とか練り、塩分とか色々それ用に別に作らないかんだろ。それも3玉ぐらいしかいらんの。ほいで、日にちも時間も決まっとるけん、特別に茹でて持って行かないかん。もう面倒くさいけんもう…。ほんでも組合の方が「出してくれ、出してくれ、品評会やけん」言うけん、まあ2、3年は出したけど「根が切れたわ」言うてやめたんや。それと、長年同じ仕事しよったら表彰してくれるやろ。真面目にしよったら、組合員とか色々、会長とかみなが推薦してくれるんや。
- ご主人
- ほんで丸川さん(丸川製麺所・閉店・高松市中新町1-7)が「(賞を)出してやろか」って言うて。
- 奥さん
- それも「いらんいらん、もうそんなんいらん」言うたんや。表彰式じゃなんじゃいうて行かないかんし、また取材が来て「寄付してくれ」言うて人が来るけん金がよーけ要って、仕事にならんでない。もうそんな名誉な分、いらん。面倒くさいことはいらん。けどみんな、少々金が要っても欲しがるのう(笑)。
- ご主人
- 欲しいんかのう。
- 奥さん
- うちや何年もう忙しけん、そんなに関わりたくなかったわ。そら、よーけ人知れてしよりゃ別やけど。
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高松市
植田製麺所
うえたせいめんしょ
760-0073
高松市栗林町2-8-11
開業日 昭和20年代
閉店
現在の形態 製麺所
(2018年10月現在)